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民法改正案の「保証人制度」は十分か?「安易に保証人になるなと義務教育で教えよ」
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民法改正案の「保証人制度」は十分か?「安易に保証人になるなと義務教育で教えよ」

「一生のお願いだから、保証人になってほしい」「絶対に迷惑をかけないから、お願いします」。こんなふうに身内や友人から頭を下げられて、保証人になることを頼み込まれたら、なかなか断れない人もいるかもしれない。しかし保証人になった結果、思わぬ債務が身にふりかかってきて、自己破産に追い込まれるケースは少なくない。

この「保証人」についての新しいルールが、いま注目を集めている「民法大改正」の要綱案に盛り込まれた。改正法案は3月下旬にも国会に提出される見込みだ。今回の改正で、保証人のルールはどう変わるのだろうか。秋山直人弁護士に聞いた。

●公正証書を作成する手間が増えるだけ?

「今回の民法改正では、保証人の制度について、いくつかの改正が提案されています。ここではポイントを2つに絞って説明します」

秋山弁護士はこのように切り出した。一つ目のポイントはどんなものか。

「まず、経営者以外の個人が、事業者の債務(借金など)を保証するケースをとりあげます。

改正案では、このような場合、契約日前1カ月以内に作成された『公正証書』をもって、保証人になる人が保証債務を履行する意思を明確に表示しなければいけません。そうしなければ、保証契約そのものが無効となります」

このような改正案が考えられた背景はどんなものだろうか。

「たとえば、経営者の親戚などが頼まれて保証人になる場合、個人的な義理や人情から安易に応じるということがよくありました。あとで事業者が倒産したときに、保証人が過大な債務を負って、身ぐるみはがされるという悲劇も起きていました。

つまり、保証人は、経済的利益を得ていないのにもかかわらず、いざとなると主な債務者と同じ法的責任を負わされるわけで、理不尽な状況にあったからです」

今回の改正案は、そうした状況を改善するものになるのだろうか。

「今回の改正案は、経営者以外の第三者による保証制度そのものを廃止したわけではなく、不十分な内容だと思います。

あくまで慎重に判断するように、公証人役場で公正証書を作り、意味をよくわかったうえでないと保証をさせない、ということにとどまっています。改正後も、公証人役場での公正証書作成が形式的・事務的に行われるのであれば、どれくらい効果があるのか疑問です。

おそらく、今あるような理不尽な実態はあまり変わらないでしょう。事務負担や公正証書作成の手数料の負担が増えるだけ、ということにもなりかねません」

●保証人を依頼する人に「説明責任」が出てくる

もう1つのポイントはどんなものだろうか。

「事業者(主な債務者)が個人に保証を依頼する際、

(1)主な債務者の財産や収支の状況

(2)今回の債務以外にほかに負担している債務の額や履行状況

(3)今回の債務の担保として他に提供する担保があるときはその内容

などについて、保証人となる人に説明しなければいけなくなります。

もし、説明を怠ったり、事実と異なる説明をしたりすることで、保証人が(1)~(3)について誤認した場合、債権者がそのことを知っていたか、または知ることができたときには、保証人が保証契約を取り消すことができるようにするというものです」

どのような意味があるのだろうか。

「たとえば、事業者が親戚などに保証を依頼する場合、実際には経営がすでに傾いているにもかかわらず、『大丈夫、迷惑はかけないから』と隠して、安易に保証に応じさせるような実態がありました。

こうしたことから、保証を依頼する側に、きちんと財産や収支状況などについて説明をさせ、頼まれた側が十分に情報を得たうえで保証するかどうかを決められるようにするというものです。

これまでの裁判例でも、民法の『信義誠実の原則』(信義に従い誠実に行動すべき原則)などを根拠に、このような説明義務が例外的に認められていましたが、今回、はっきりと法律に明文化されることに意義があります」

では、民法改正後は、安易に保証に応じてしまったために、後でとんでもないことになるという悲劇は避けられるのだろうか。

「私には、そう簡単にそのような事態がなくなるとは思えません。

その理由は、裁判で保証の取消しが認められるためには、依頼する側がきちんと説明しないで保証人が誤解したということだけでなく、そのことを債権者の側が知っていたか、知ることができたということまで、保証の取消しを主張する『保証人』の側で立証しなければいけないからです。

こうした立証のハードルは、かなり高いと思います」

さらに、秋山弁護士は次のように話す。

「個人的には、『人に頼まれても、安易に保証人になってはいけない』ということを義務教育でしっかりと教えることが大事ではないかと思っています」

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

秋山 直人
秋山 直人(あきやま なおと)弁護士 秋山法律事務所
東京大学法学部卒業。2001年に弁護士登録。所属事務所は四谷にあり、不動産関連トラブルを中心に業務を行っている。

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