- 自己破産
前任の遅れで不信を抱いた依頼者──怒りのクレームから信頼へ。誠実な対応で築いた「再出発の絆」
相談前の状況
このご相談は、私がある弁護士法人に在籍していた頃、前任の弁護士から引き継いだ個人事業主の自己破産案件でした。
もともと前任者が受任していたものの、手続きの進行が滞り、依頼者との連絡も途絶えがちになっていたようでした。
依頼者は、事業の売上減少により、金融機関からの借入を多数抱えていました。
破産の申立てを希望されていたにもかかわらず、必要書類の準備や進行状況の説明が十分にされていなかったことから、強い不信感を募らせていたのです。
私が正式に担当を引き継いだのは、まさにその不満が頂点に達していた頃でした。
引き継ぎのご挨拶の電話をかけた直後、依頼者から1時間近く、怒りと失望の入り混じったお叱りの言葉をいただきました。
「もう二度と弁護士なんか信じない」「時間とお金を返してほしい」といった強い言葉もあり、正直なところ、「なんで私がこんなことを言われないといけないんだろうか」と、胸が締めつけられる思いでした。
しかし、それほどまでに不安と焦りの中にいらっしゃるのだと感じ、私はまず依頼者の思いをすべて受け止めることにしました。
途中で言葉を挟まず、相手の話を最後まで聞く。
そのうえで、「ここからは私が責任を持って進めます」「迅速に手続を進めていきます」とだけ伝え、電話を終えました。
怒りを鎮める言葉よりも、信頼を取り戻すための行動を最優先にする。
このとき、そう心に決めました。
解決への流れ
引き継ぎ後は、申立準備を一から見直し、記録の整理や債権者一覧表の作成を迅速に進めました。
提出書類の抜け漏れをなくすために、依頼者とのやり取りをこまめに行い、進捗を逐一報告しました。
「次に何をするのか」「今どの段階にいるのか」を分かりやすく伝えることで、少しずつ依頼者の表情や声のトーンが柔らかくなっていくのを感じました。
破産手続きが進むにつれ、当初の激しい口調は次第に落ち着き、申立ての日には「先生、ここまで早く進めてもらって助かりました」と言っていただけるようになりました。
裁判所への出廷を終えた帰り道、依頼者から「少しお茶でもどうですか」と声をかけられました。
近くの喫茶店に入り、コーヒーを飲みながら、事業のこと、ご家族のこと、趣味の話など、まるで旧知の知人のように穏やかな時間を過ごしました。
事件が無事に終了した後、依頼者は「最初は本当に腹が立って仕方がなかった。でも、先生の対応を見て信頼できると思った。また何かあったら必ず先生に相談します」とおっしゃってくださいました。
その言葉を聞いた瞬間、心の中に静かな達成感と感謝の思いが広がりました。
「法的に解決する」だけではなく、「人として信頼を取り戻す」。
この経験は、私にとって大きな学びとなりました。
竹内 欣士 弁護士からのコメント
この事件を通して、あらためて「債務整理は人の再生の支援である」という原点を思い出しました。
自己破産の手続きは、法律上の申立てや書面の作成など事務的な側面が多くあります。
しかし、その背景には必ず「もう限界かもしれない」「誰にも相談できない」という債務者の深い心の苦しみがあります。
依頼者が怒りや不信をぶつけてこられるとき、その根底には「誰かに理解してほしい」という切実な願いがあるのだと思います。
弁護士として、まず大切なのは、相手の気持ちを真正面から受け止めることです。
すぐに正論や手続きの説明をするよりも、「聞く」「待つ」「寄り添う」。
そうすることで、依頼者が安心して状況を話せるようになり、結果として事件がスムーズに進むことを何度も経験しています。
また、引き継ぎ案件では、過去の対応への不満を抱えたまま新しい弁護士に不信感を持つ方も少なくありません。
そんなときこそ、「言葉より行動」が何よりの信頼回復につながります。
報告を怠らず、手続きの進捗を共有する。
小さな一歩を積み重ねることで、気づけば相手の表情が変わり、声のトーンが変わります。
この案件の依頼者も、最後には「ありがとう」と笑顔で帰って行かれました。
それは単に破産手続きが終わったからではなく、「誰かが本気で向き合ってくれた」という安心が生まれたからだと思います。
今でもこの経験は、私の弁護士としての原点の一つです。
これからも、どんなに厳しい状況の中にあっても、依頼者の再出発を信じ、寄り添いながら支えていきたいと思います。
【免責事項】本記事は、実際に取り扱った事案をもとに、依頼者のプライバシーに配慮して事実関係の一部を抽象化・再構成したものです。個別の事情により手続きの進み方や結果が異なります。掲載内容は執筆時点の法令・実務を前提としており、法改正や運用変更により取扱いが異なる場合があります。具体的な事情については個別に弁護士へご相談ください。
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