キャリアコンサルタントで培った傾聴力を活かして、企業法務と離婚問題に注力
予防法務の重要性に気づき、企業法務に取り組む
ーー弁護士を目指したきっかけや理由を教えてください。
中学生の頃、松本サリン事件の冤罪をテーマにした映画を観て、法律に対する興味が芽生えました。映画を通じて、「冤罪などという不合理なことが起こってはならない」という信念が私の心に深く刻まれました。
この思いを胸に法学部に進み、法律の勉強に打ち込みました。周りの同級生たちも同じく弁護士を目指しており、彼らの存在が私をさらに前に進ませる原動力となりました。共に学び、切磋琢磨する仲間たちがいたことで、弁護士への道筋がより明確になりました。
ーー現在の注力分野を教えてください。
企業法務と離婚問題に注力しています。
弁護士になった当初は、交通事故など一般的な紛争案件を主に手掛けていました。しかし、様々な事件を経験する中で、紛争を予防することの重要性を痛感し、裁判などに至る前の段階でトラブルを解決することが当事者双方にとってはもちろん、社会全体にとっても良いことではないかと考えるようになりました。そこで、予防法務に焦点を当てた活動をしたいと考え、民間企業に出向して企業法務に取り組みました。約3年間の出向期間で得た知識と経験をもとに、現在も企業法務に力を入れています。
離婚問題は、初期から注力していた分野です。私自身が結婚して子どもを持つ立場になったことで、以前よりも依頼者の状況を理解し、その気持ちに共感できるようになり、より一層のサポートを提供したいという思いで注力しています。
ーー出向先ではどのような業務をされていたのですか。
契約書のリーガルチェックや社内規定の作成、法律に関する相談など、一般的な企業法務と業務内容に違いはありません。しかし、外部の弁護士としてではなく、企業の一員として社内の法的問題に対応するため、クライアントとの関わり方には大きな違いがありました。
企業の法務担当者からすると、外部の弁護士は時間や距離の制約があるほか、「弁護士は敷居が高い」という先入観から、心理的にも距離感があるように感じます。その点、企業内の弁護士は従業員との距離感が近く、コミュニケーションも頻繁に取れるため、信頼関係を築きやすいと感じました。
出向経験を通じて得た、企業の内部から見える視点や仕組みの理解は、今後の企業法務において大きな価値を持つと考えています。これらの経験を活かして、より効果的かつ適切な法的サポートを提供していきたいと思っています。
解決策を押し付けない姿勢が大切
ーーキャリアコンサルタントの資格を保有されているそうですが、なぜ取得しようと思われたのですか。
出向先の企業で、従業員が高いモチベーションを維持することが難しい状況にあると感じたことが影響しています。
私が所属していた企業に限らず、法務部という組織は、仕事の成果が見えにくく、周りから感謝されることが少ないという課題があると思います。その状況が、従業員のモチベーション向上につながらない環境を生んでいると感じています。従業員が仕事にやりがいを持てなかったり、モチベーションが低かったりすると、企業の生産性が向上しないばかりか、離職率の増加にも繋がります。
人材は企業にとって貴重な財産です。特に法務部門においては、対応すべき課題が次から次へと発生する一方で、人材は不足しており、獲得競争が激化しています。法的問題の解決だけでなく、人材の有効活用といった点からもサポートしたいと考え、キャリアコンサルタントの資格を取得しました。
ーーキャリアコンサルタントの資格は、弁護士の仕事にどのように活かされるのでしょうか。
顧問先の企業に対して、人事・労務に関するアドバイスができるほか、従業員がより働きがいのある働き方を見つけるためのサポートが可能です。企業全体での業務の改善や効率化、ワークライフバランスの確保など、従業員の働く環境やモチベーションを向上させることで、企業の活動の質や組織全体のパフォーマンス向上に寄与できると考えています。
また、キャリアコンサルタントの資格は、個人案件においても有益です。例えば離婚問題であれば、結婚を機に仕事を辞めた女性が、離婚後の生活に不安を抱えるケースがあります。そのような方に対して、再就職を含め新しい生活への再出発に向けたサポートを行いながら離婚問題に取り組むことができます。
ーーキャリアコンサルタントの資格を取得したことで、変化したことはありますか?
資格取得により業務の幅が広がっただけでなく、キャリアコンサルタントの素養を身につけるためのトレーニングを受けたことで、私自身に大きな変化が生まれました。特に大きな変化は「傾聴」の重要性に対する意識の向上です。
弁護士は問題解決に焦点を当てて、依頼者の話を整理する傾向があるように思います。一方で、カウンセリングやコーチングの基本である傾聴は、相手の話を丁寧に聴いて共感を示すことが大事であり、依頼者自身が解決策を見つけ出すことを支援するという姿勢が求められます。
キャリアコンサルタントの養成講座でカウンセリングのロールプレイを行った際に、講師から「あなたは問題を解決しようとしている」と指摘されました。カウンセリングをした相手からも、「思ったことが話せなくてモヤモヤした」というフィードバックを受け、自分の傾聴スキルに課題があることに気づきました。
キャリアコンサルタントのトレーニングを積むことで、依頼者の表面的な言葉だけでなく、その裏に潜む本当の意味や感情を理解しようとする姿勢が身につきました。解決策を提示する前にクライアントの立場に立ち、真摯に向き合う姿勢が養われ、法務業務においてもより効果的なサポートを提供できるようになったと感じています。
弁護士の価値基準だけで依頼者のゴールを設定するべきではない
ーー仕事をする上で心がけていることはありますか。
依頼者が何を望んでいるのかを理解することです。弁護士になったばかりの頃は、例えば離婚問題において、養育費や婚姻費用を最大限に獲得することが依頼者のためだと考えていました。しかし、実際に事件を経験する中で、依頼者のニーズは1人ひとり全く異なることに気づきました。
心の底では離婚を望んでいなかったり、金銭の獲得よりも早期の解決を重視していたりなど、目指すゴールは人それぞれです。弁護士の価値基準だけで依頼者のゴールを設定するべきではないと、経験を通じて学びました。
企業案件も同様に、クライアントの要望を正確に把握することが大切だと認識しています。企業の場合、社風や業界の常識によって、価値観や判断基準が異なります。期待に応えるためには、クライアントの情報を正確に把握して、適切なサポートを行うことが重要だと考えています。
ーー弁護士業務にやりがいを感じるのはどのようなときですか。
離婚問題をはじめ、依頼者の人生に直結する仕事なので重責を感じることもありますが、それだけに、依頼者自身が納得できる良い解決に導けたときはやりがいを感じます。
また、弁護士の仕事はクリエイティビティが求められると感じています。特に企業法務では、契約書の作成や社員研修などにおいて、適切な表現を見つけ出すための創造力が重要です。法的な知識だけでなく、柔軟性やアイディアが必要とされる点に面白みを感じています。
ーー今後の展望についてお聞かせ下さい。
企業法務と離婚問題を中心に活動していく予定です。
企業法務においては、企業における法務の必要性を伝え、法務機能を拡充することのメリットを提示することで、企業全体がより効率的に運営できるようにサポートしたいと考えています。
離婚問題に関しては、子育てをする女性が、離婚によって苦しい立場に置かれるケースが多いように感じます。法的な紛争解決はもちろんのこと、キャリアコンサルタントの資格を活かしたサポートも行っていきたいと考えています。また、私自身も育児の真っ只中で、子育ての大変さを痛感しているので、子を持つ親の立場として、依頼者に寄り添いながら問題解決に取り組みたいと思っています。
ーー最後に、法律トラブルで悩みを抱えている方にメッセージをお願いします。
自分が抱えている悩みが法的な問題かわからず、弁護士に相談するべきか迷われている方もいると思います。そのような場合でも、遠慮することなく弁護士に相談してください。
悩みを他人に話すことで新たな視点が得られたり、解決の糸口が見つかったりすることもあります。法的な問題かどうかを弁護士に判断してもらうだけでも、大きな前進だといえます。
法的トラブルの中には、時間の経過によって解決が難しくなるケースもありますので、困ったことがあるなら、ぜひ相談してください。きっとお力になれると思います。