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「お年寄りの人生を歌に」介護士シンガーソングライター  「共感できる場」作りへの挑戦
かんのめぐみさん

「お年寄りの人生を歌に」介護士シンガーソングライター  「共感できる場」作りへの挑戦

その人の人生を歌で伝えたいーー。そんな想いで歌うシンガーソングライターがいる。

香川県高松市を拠点に活動するシンガーソングライター・かんのめぐみさん(27)は、現役の介護士の顔を持つ「シンガーソングライター」だ。「介護の現場にいると、お年寄りの人生が垣間見える瞬間があるんです。その人の人生を歌にして、表現したい」というかんのさん。

かんのさんが制作する楽曲は、介護の現場で出会ったお年寄りやその家族がモデルだ。また、介護中の家族や介護従事者を招いた音楽ライブイベントも行い、当事者たちが交流を深める場所作りにも挑戦している。

音楽という手法で、介護の世界にアプローチするかんのさんに、その想いを聞いた。(ライター・岡安早和)

●歌は介護のコミュニケーションツールなんです

高校生のころから音楽活動を行っていたかんのさんだが、「その人の人生を歌にする」という今のスタイルは、介護士としてお年寄りと触れ合う中で自然に生まれた。

「介護のケアには経歴や好みなど、その方の情報がとても大切になるんですが、認知症をお持ちの方だと、会話から得られる情報が少ないこともあります」

会話のキャッチボールが難しい場合でも、かんのさんはお年寄りの表情や、つぶやく一言を見逃さないように心がけている。何気ない一言や行動に、それまでの人生が色濃く出る瞬間があるからだ。

「たとえば、私のエプロンをいつも褒めてくれる女性がいるんですが、調べてみると、若い頃から洋服屋さんで長年働いていた方だとわかりました。

人って、身に付いた習慣やクセは何年経っても染みついているんですね。介護する中で、その方が生きてきた証を見る機会は多くあります」

施設のある入居者の女性は、元船乗りだった。女性から当時の話を聞き、かんのさんはこんな歌(『ヨーソロー』)を作っている。

〈心の波に負けそうになったら 舵を切れ 舵を切れ

ここは海 どこにでもつながっている

思ったその日が吉日だ

今ならその波に乗っていける

しぶきあげ しぶきあげ

今日は晴れ 見渡せど日本晴れ〉

曲は、かんのさんの公式YouTubeでもアップされている。( → https://www.youtube.com/watch?v=xqEJ8cosRYE

「私にとって、お年寄りの歌を作ることは、介護士としてのコミュニケーションツールになっています。歌にすることで、お年寄りの情報を自分の中で整理できるので、介護ケアにも生きてきます」

●一度職を離れて見えたもの「自分のやり方でいいんだ」

介護の世界で精力的に挑戦するかんのさんだが、実は一度、介護士の職を離れたことがある。

「医療や介護の世界ってどうしても閉鎖的になりがちなんですよね。こうでなくてはいけないとか、昔からこうやっているとか。それで自分自身を縛って苦しんでいる従事者の方も多いと思いますし、実際、私もそこに苦しんだひとりでした」

しかし、一度職を離れたからこそ、現在のかんのさんの活動に繋がる発見があった。

「介護士をやめてから音楽フェスのオーディションを受けたんですが、その審査員の方が、私の曲を聞いて『面白いね』って言ってくれました。それを聞いて肩の荷が降りたというか。何でも自分のやり方でやれば良いんだって初めて思えたんです。

外の世界を知って、『あれもこれもやって良いんだ』って気付けたのはとても大きな経験になりました。介護士の仕事はやっぱり好きだったので、その後すぐに復帰しました」

●悩みや気持ちを共感できる場所を

かんのさんは年に数回、音楽イベント「歌で紐解くあなたのアナザーストーリー」を開催している。音楽ライブだけでなく、招かれた介護家族や介護従事者が、その実体験を語る時間も設けているのが特徴だ。

「印象的だったのは、『自分の介護の経験も話したい』という人が多かったことです。皆さん、自分の気持ちを吐き出したい、自分の経験が役立つならアドバイスしたい、とおっしゃってくれます」

介護家族の中には、周囲に相談できずに孤独を感じる人も少なくない。イベントは、そういった人達の受け皿としての役割も果たしている。

「たとえば、自分の親を介護している方が『施設に頼ることに罪悪感を感じる』と話してくれたのですが、参加していた介護従事者や行政の担当者の方が、介護制度などに関するアドバイスをし、罪悪感を和らげようとしてくれました」

参加者にとって、介護によって時間的な制約もある中で、誰にも話せなかった心の内を明かす貴重な場となっているようだ。まだ始めたばかりで、かんのさん自身も模索している段階だというが、その方向性は定まりつつある。

「皆さんの気持ちをシェアできる場所になることを目指しています。同じ立場の人と共感すると一番心が落ち着きますから。これからもどんどん展開していきたいですね」

●医療や福祉の世界はもっと自由で良い

かんのさんの更なる目標は、医療や福祉の世界で「パラレルキャリア」を広めていくことだ。

「私の知り合いには、介護士をしながらお年寄りを撮影する写真家の方だったり、作業療法士をしながらスポーツイベントを開催する方だったり、本当に色々な方がいます。

もっと、分野の壁とか、これまでの枠組みを超えていけば、新しい何かが生まれるはずです。医療や福祉の世界って、本当はもっと自由で良いんじゃないでしょうか」

【取材協力】かんのめぐみさん  特別養護老人ホームで介護士として働きながら、シンガーソングライターの活動を行うシンガーソングライター。医療や福祉イベントを中心にライブを行う。介護家族や介護従事者を招いた音楽イベント「歌で紐解くあなたのアナザーストーリー」を企画・開催。

【ライタープロフィール】岡安早和。大学卒業後、企業の法務部にて勤務し、転勤族の夫との結婚を機にライターに転身。2017年から香川県高松市在住。

(弁護士ドットコムニュース)

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