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2015年09月21日 09時30分

誹謗中傷を残すことがグーグルの中立性なのか――神田弁護士が語る「忘れられる権利」

誹謗中傷を残すことがグーグルの中立性なのか――神田弁護士が語る「忘れられる権利」
神田知宏弁護士

インターネット上の誹謗中傷やプライバシー侵害に苦しむ人たちを救う新しい権利として、「忘れられる権利」が注目を集めている。

2014年10月には、自分の名前を検索すると「犯罪に関わっているかのような」検索結果が出てくるとして、日本人男性が、グーグルに検索結果を削除するよう求めていた仮処分申請を東京地裁が認め、「日本でも忘れられる権利が認められた」と話題となった。

「忘れられる権利」とはどんな権利なのか、仮処分決定を勝ち取った男性の代理人をつとめ、「ネット検索が怖い 『忘れられる権利』の現状と活用」(ポプラ新書)の著者である神田知宏弁護士に聞いた。

●ネットで「人のうわさも75日」は通用しない

――「忘れられる権利」とは、どのような権利でしょうか。

「削除請求権一般」と考えてもらえばいいと思います。新しい人権です。

まだ、厳格な定義づけはされていません。マスコミの使い方もまちまちです。ネット上の削除請求権一般を「忘れられる権利」として使っている場合もあるし、特に検索サイトであるグーグル、ヤフーに対して「検索結果を削除することを請求する権利」を「忘れられる権利」と呼んでいることもあります。

ルーツをたどると、2012年に、EUのデータ保護規則(案)17条で「right to be forgotten」として、明文化されました。そして、EU司法裁判所は2014年5月13日、グーグルに対して検索結果の削除を命じる判決をくだしました。その判決が日本でも、「グーグルに対して検索結果を削除してもらえばいいんだ、それが『忘れられる権利』なんだ」と話題になったのです。

このEU司法裁判所の判決文を読んで、私は「日本でも同じ請求ができるのではないか」と考えました。それが、昨年10月9日に東京地裁がグーグルに対して命じた、検索結果削除の仮処分決定につながりました。

――なぜ、「忘れられる権利」が注目されているのでしょうか。

「人のうわさも75日」と言って、どんな出来事でも、いずれ人は忘れてくれます。でも、インターネットは半永久的に忘れてくれません。その人にとって、忘れてほしい、忘れたいこともです。

そこで、「ネットに忘れてもらおう」ということで出てきたのが、「忘れられる権利」なんです。ある意味、自分が「忘れたい」権利でもあります。

検索サイトがない時代には必要ありませんでした。「ネットサーフィン」という言葉がありましたよね。 あるサイトから、そのサイトのリンクを踏んで、順番にサイトをめぐっていく時代には、誹謗中傷がネット上に書かれたとしても、容易にそこにたどり着くことはできませんでした。

でも、検索サイト登場後は、検索窓に名前をいれると、一瞬にして、個人に関する誹謗中傷や、プライバシー情報が全部出てきます。しかも、今はネット環境も整って、スマホを皆が持っているわけですから、検索することがより簡単になりました。

みんな、「2ちゃんねる」に悪口が書いてあるから苦しいわけではないんです。それよりもむしろ、自分の名前で検索すると、「2ちゃんねる」の悪口が書いてあるスレッドが検索結果でたくさん表示されることが嫌なわけです。

ですから、「忘れられる権利」では、検索結果という「入り口」を押さえようとしています。検索結果を削除すれば、誰も誹謗中傷が書いてあるサイトにはたどり着けなくなり、権利救済が図れます。個別のサイトをひとつひとつ削除するより、コストも安いです。

●正義感による炎上、対症療法のとしての「削除」

――なぜ、ネットの誹謗中傷はなくならないのでしょうか。

先日の五輪エンブレムのデザインをめぐる一連の騒動にも当てはまることですが、ネット住民を突き動かしているのは、いわゆる「正義感」です。でも、絶対的な正義なんてありません。法律の「枠」を乗り越えるものは、正義ではなく、違法行為です。

でも、法律に対して無知だったりすると、容易にその「枠」を乗り越えてしまいます。自分の正義感、義憤のままにネットに書き連ねる。それに同調した人がまた書き連ねて、炎上していく。そうして、プライバシー、誹謗中傷が拡散していく。自分が正義だと思っているので、「悪いやつをたたいて何で悪い」と考えているのでしょう。

もう一つのパターンは、妬みや嫉みのたぐいです。「なんか自慢してるぞ、こいつ」、「調子に乗ってて、嫌なやつだ」ということになると、不特定多数の人が集まってくることになります。

――名誉毀損などで訴えられる可能性があることを自覚していないのでしょうか。

書き込む側は、自分に跳ね返ってくるリスクは考えていないのでしょう。

しかし、最高裁の判例では、ネットで書き込む個人には、マスコミと同じ程度の調査義務があるとしています。個人だろうと、マスコミだろうと、デマや誹謗中傷をネットに書いたら、誹謗中傷が拡散していくし、書き込まれた側が十分に反論できないこともあります。被害は甚大になります。

ですから、ネットで個人が情報発信するのも、マスコミが情報発信するのも、責任は同じだというわけです。ネット上の情報を安易に信じて特定の人をネット上で攻撃することには、大きなリスクを伴います。

そうしたリスクを教える教育が必要です。ですが、まだあまり考えられていませんし、法制度も整っていません。いわばネット社会の「過渡期」なので、対症療法として、削除という手段が使われているわけです。過渡期が過ぎれば、「忘れられる権利」が行使される機会も減るのではないでしょうか。

●「インターネットジャイアント」にモノ申す

――今後、「忘れられる権利」にどんな役割を期待してますか。

人間を幸せにすることです。検索結果で傷ついている人や、検索結果があることで、心穏やかに生きていけない人たちをなくし、人間が心おだやかに生きていくために役立ってほしいと思います。

――グーグルのように巨大な影響力をもった企業にどう立ち向かっていくのですか。

彼らは、自分たちのことを「表現の自由の媒介者」と評しています。表現する人と、読みたい人を媒介しているんだということです。そのために、検索結果は中立でなければいけないし、検索結果に手を加えることや削除することは、中立性を害すると考えているようです。

でも、誹謗中傷のように違法なものを残しておくことが中立だと主張するのは、おかしい。

私のような「削除村」の弁護士の役目は、グーグルのような「インターネットジャイアント」に対して、問題提起をしていくことだと思います。政府に対してと同様に、インターネットジャイアントに対しても、モノを言う人たちがいなければならないと思います。

(弁護士ドットコムニュース)

神田 知宏弁護士
フリーライター、IT社長を経て弁護士、弁理士登録。著書としては、インターネット入門書も含めてパソコンソフト入門書が少なくとも少なくとも100タイトル。元、日弁連コンピュータ委員会副委員長。
事務所URL:http://www.ogaso.com/
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