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2015年09月10日 10時28分

五輪エンブレム「展開例」での写真流用――審査委用の「内部資料」ならセーフだった?

五輪エンブレム「展開例」での写真流用――審査委用の「内部資料」ならセーフだった?
佐野研二郎氏

盗用疑惑に揺れ、最終的に使用中止が決まった2020年東京オリンピックのエンブレム。最終的に、原作者の佐野研二郎氏が取り下げを申し出る決め手となったのは、渋谷交差点や羽田空港にエンブレムを配置した「展開例」のイメージイラストに、佐野氏が他人の写真を無断で流用していたことだった。

大会組織委によると、佐野氏は「展開例に使った写真は、応募時に、審査委員会の内部資料のために作った」と説明した。他人の写真を無断使用したことについては、「審査委員会のクローズドな場では、デザイナーとしてはよくある話だ」と釈明する一方で、「公になるときには権利者の了解を得ることが当然のルールだが、それを怠った。不注意だった」と反省の言葉を述べたという。

組織委の説明を聞く限り、佐野氏の認識は、審査委というクローズドな場で使う内部資料としては「セーフ」だったが、権利者の許諾を得ないまま公にしたので「アウト」になった、というものだったように思われる。これは、ルールの認識として正しいのだろうか。今回の展開例は、仮に一般公開されなかったとしたら、法的には「セーフ」だったのだろうか。著作権に詳しい中川隆太郎弁護士に聞いた。

●「私的複製にはなりにくい」

「今回は、他の方の写真(著作物)を利用して、エンブレムの展開例を作成したということなので、『著作物の複製・翻案』に当たります。これらは、原則として権利者の許諾を必要とします。そのため、今回の展開例での無許諾利用は、著作権法上、『無許諾でも適法に利用できる』と定められているケースに該当しない限り、違法とされてしまう可能性が高いといえます」

コンペの審査委員会というクローズドな場での内部資料として使うことは、例外にあたるのだろうか?

「まず、著作権法では、私的使用のための複製・翻案は許諾なく行うことが認められています(著作権法30条、43条1号)。ただ、この『私的複製』は、あくまで個人や家庭内でのプライベートな利用を念頭に置いたルールです。企業内での複製などは、このルールで保護されないとの考え方が有力です。

一般に、コンペティションの資料として利用する以上、ビジネスとして第三者に提示する目的での複製・翻案となり、私的使用目的での複製と評価することは難しいでしょう。あるべき制度論はさておいて、『クローズドな場での利用なので許諾不要』というルールにはなっていないのが現状です」

●「検討過程における利用」とは?

クローズドな場面での複製や翻案に関するルールは、他にないのだろうか?

「『検討過程における利用』というルールがあります(著作権法30条の3)。

たとえば、A社が自社の広告キャンペーンに、とある人気キャラクターを起用するかどうかを検討しているとしましょう。この場合、許諾を得てキャンペーンに起用することを前提とするのであれば、A社の広報担当者が、そのキャラクターのイメージイラストを社内検討用の企画書に無許諾で掲載したとしても、原則として適法です。これが『検討過程における利用』というルールです」

今回の場合、ちょっとシチュエーションが異なる気もするが、その例外に当てはまる可能性はあるのだろうか?

「このルールは、社内での検討に限定されず、クローズドなプレゼンであれば、社外向けの検討でも適用される余地があります。しかし、このルールで保護されるためには、『許諾を得て著作物を利用しようとしている』ことを前提となります。また、あくまで『必要な限度』という枠内で行うことも条件とされています。

今回のケースでは、展開例のイラストは『内部資料のために作った』もので『公になるときは権利者の了解を得ることが当然のルールだが、これを怠った』と説明されています。

仮に、佐野さんの説明の趣旨が『あくまで展開例は内部資料なので、権利者の許諾は得ずに作った。もし内部資料としての予定を変更して公開されることがあれば、その段階では許諾を得るつもりだった』ということであれば、『許諾を得て著作物を利用しようとしている』との前提を欠き、残念ながらこのルールでも救われない可能性が高いでしょう。

また、いったんは適切に『検討過程における利用』が行われていたとしても、それを無許諾で公開すれば、著作権侵害とみなされます。

今回の展開例も、仮に途中で『検討過程での利用』と評価できる場面があったとしても、権利者の許諾を得ないまま公開された時点で、複製・翻案権侵害とみなされてしまいます」(著作権法49条1項1号・同2項4号)

●リスクの回避は可能

それでは、ビジネス目的で利用する素材として、渋谷駅前の写真を今すぐ探す必要に迫られたら、どうすればいいのだろうか。

「広告やウェブサイト、報道向け資料などの素材として、頻繁に利用されるシーンやシチュエーション、人物などを被写体とする写真を『ストック・フォト』といいます。そうした写真をインターネット上で販売・提供するサービスが近年、質・量ともに充実度を増しています。

また、一定の条件を守れば無償で適法に利用できるクリエイティブ・コモンズライセンスの付された写真を検索できる『Flickr(フリッカー)』のようなサイトもあります。

つまり最近は、著作権侵害のリスクを避けつつ、ビジネスでも利用可能な素材写真をインターネットで探すことが、ある程度容易になってきているといえます」

佐野氏も、そうしたサービスを適切に利用していれば、展開例でつまづくような事態を避けられたのかもしれない。

「佐野さんがデザインを手がけたオリンピック・エンブレムは、著作権侵害の可能性も低く、デザインとしても魅力的でした。それだけに、展開例の点で脇が甘かったこと、そして組織委員会の説明によれば、権利処理への認識の甘さが招いてしまった展開例での著作権侵害がエンブレムの取り下げに一定の影響を与えたように見えることは、やはり残念です」

(弁護士ドットコムニュース)

中川 隆太郎(なかがわ・りゅうたろう)弁護士
Fashion Law Institute Japan研究員。舞台作品、映画、出版、ファッション、広告などの様々なアート、エンタテインメント分野の法律問題を取り扱う。主著に「問い直される実用品デザインの保護のルール」(コピライト2015年9月号)などがある。
所在エリア:
  1. 東京
  2. 港区
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