吉江 仁子 弁護士 インタビュー
弁護士を目指したきっかけ
他にやれる仕事がなかったからというのが本音です(笑)。6年間販売の仕事でパソコン売り場にいましたが、パソコンや電気機器に関するセンスのなさを感じ、あと30年この仕事を続けるのは無理だと思いました。そこで28歳時に公務員試験を受け、筆記試験には合格したのですが、採用面接にあたり、「僕たち、君の年齢だと課長なんだよ」などと面接官から言われ、ここも違うなと思って、面接活動を続けるのを辞めました。
その後、まったく転向して作業療法士や理学療法士になることを考えたりしていた時期もありましたが、近所の方が「法律事務所の事務員を募集してる。やってみませんか?」と勧めてくれたことがきっかけで、事務員になりました。
しかし、法律事務所の事務員には、高い事務能力・接客能力が必要で、「至らない私では事務員は続かない」と感じ、弁護士なら、多少至らなくても許されるのではないかと思い、事務員になって。3週間後に司法試験の勉強を始めました。そこで今に至るといった感じです。
実際に弁護士になって感じること
元々、野心を持って弁護士になったわけではないのでGAPは全くありません。なってみて思うのは、弁護士は私に向いている職業だということです。なぜなら、依頼者の話を聞き、受け止めて一緒に解決していくということが本当に楽しいからです。
自分自身が人生で右往左往したので、それが役に立っています。迷ったまま生きてる時間が長く、模索しながら生きてきましたが、依頼者目線で話しやすいといった点で経験としてよかっです。
弁護士になって大変だと感じること
依頼者の気持ちのフォローです。事件には、必ず山場があります。争点整理の結果争点が残るわけですが、つまりそれは、こちらの主張の弱点でもあるわけです。事件が成熟してくると、事件の勝敗や、筋のようなものが見えてきます。当然、いつも、私の依頼者が「勝ち筋」というわけではありません。
そういう事件の山場の時には、依頼者の方の気持ちは不安定になります。そういうときには、最善を尽くすためにも、本人に気持ちを切り替えてもらい、強い気持ちを持ってもらわないと勝てるものも勝てなくなるので根気よく励まし続けます。
今後のビジョン
私は視覚障害を持っており、盲導犬を連れています。私が頑張ることで、障害があっても社会資源を使って活躍することができると伝えることができると思います。また、私自身が頑張るだけでなく、障害者が自立した生活を送るための活動を積極的に行いたいです。
障害のある人は、様々な困難な状態に置かれていますが、特に、法律家が関われるのは、経済的搾取に対する支援です。いわゆる成年後見人になったり、消費者被害の救済にあたったり、また、行政に働きかけて、政策形成を促したり、法律家に求められる役割は、決して小さくないと感じています。
今後の弁護士業界の動向
特に意識はしていません。ただ、司法修習生の激増を、現場が受け止めきれず、就職難で、「即独」(いきなり独立すること)する方が増えていることについては、危機感を感じています。というのも、いわゆる「古き良き時代」には、いわゆる「イソ弁」(勤務弁護士)として、先輩弁護士からOJTを受けながら、起案の仕方、交渉の仕方を教えてもらえたのですが、「即独」では、そのような機会がないからです。
弁護士の仕事は、依頼者の人生や、会社の命運を左右する責任の重い仕事です。弁護士会も、新人の方のスキルアップについては、いろいろと研修などもしていますが、十分とは言えません。市民の弁護士に対する高い信頼に業界として応えるためにも、仕事の質をどう維持していくかは、業界全体の大きな課題だと感じています。
障害者の自立のための活動
弁護士会の高齢者・障害者特別委員会に所属しています。いわゆる政策形成訴訟の中では、障害者自立支援法応益負担違憲訴訟の愛知訴訟の弁護団の一員として活動しました。平成18年4月、障害者自立支援法の施行によって、障害のある人は、福祉資源を活用した量に応じて利用料を支払わなければならなくなりました。
ただでさえ、低所得であることが多い障害のある人が、福祉サービスを利用する度にコストがかかるため、ヘルパーを朝まで我慢したり、作業所に通うのを諦めたり等の事態が発生しました。また、父親が、知的に障害のある娘二人と無理心中をするというような痛ましい事件も起きました。
このように、この法律は障害者の尊厳を大きく損なうものでした。そこで、全国14地裁で、合計71人の原告が、障害者自立支援法の応益負担規定が、憲法13条、14条、25条などに違反しているなどと裁判所に訴えたのです。裁判は、政治的和解により、平成22年4月、すべての地裁で和解が成立しました。
が、今は、その政治的和解の約束が反故にされようとしており、障害者の自立を支援するための運動は続いています。その他には、認知症や精神に障害ある方の成年後見人や保佐人として、財産を管理したり、社会福祉法人の幹事などに就任しています。
仕事をする上で意識していること
「事件のことは依頼者が一番よく知っている」ということです。法律家の目線で、事案をまとめていると、ちょっとしたニュアンスの違いを、依頼者が、「でも、先生これはこうなんです!!」と訴えてくることがあります。そして、法律家としての見立てを話して、いったん納得してもらっても、また、その訴えが繰り返されるということがあります。
そういう時には、その訴えには、わたしの見落としている重大な争点(再抗弁など)についてのエピソードやヒントが含まれていることがあります。ですので、依頼者の一生懸命さがどこに向けられているかを一つ一つの発言から見逃さないようにしています。