内田 信也 弁護士 インタビュー
弁護士を目指したきっかけ
司法試験を目指すきっかけになったのは大学のゼミです。私は東北大学の法学部だったのですが、学部のゼミで指導を受けたのが小田中聰樹先生(刑事訴訟法)だったわけです。人格・識見はいうにおよばす、人権感覚がとてもシャープで「碩学」とはこういう人のことをいうのだ、と思いました。
私は、そのゼミで小田中先生に褒めてもらいたい一心で、一生懸命勉強しました。私が法律を勉強したのは本当にそれだけが理由で、何か印象的な事件に触発されてとかではないんです。子供みたいですね。
その延長線で司法試験も受けてみることにしたんです。司法試験に受かれば褒めてもらえるかなと(笑)。でも、なかなか受からず、裁判所の事務職をしながら5年かかりました。
結果的になんとか受かることができたのですが、そんな経緯ですから研究者になれるはずもない。そこで、弁護士になって刑事事件の経験を積めば、先生と対等にお話できるのではないかと思って、弁護士を目指し続けたわけです。あまり、かっこいい話ではないのですが、私の心の中には、いつも小田中先生がいて、人生の羅針盤なんですね。
印象に残っている案件(事件)
北炭夕張新鉱ガス突出事故に関する損害賠償訴訟です。昭和56年に、夕張で起きた炭坑事故です。今は原発が大きな問題となっておりますが、昔は石炭です。石炭産業における人権蹂躙状況は酷いもので、明治以来、労働者は虫けら同然に扱われてきた歴史があります。
そんな中で夕張新鉱は、株式会社北海道炭鉱汽船(略称「北炭」)が生き残りをかけて開発した最新鋭の炭鉱と言われていました。それにも関わらず、国から命じられた「出炭目標」を達成しようとして、地下800mにある炭層の中をガス抜きをしないまま「ガスの巣」へ突入したわけです。それにより大量のメタンガスが突出し、坑内火災が発生して96人が亡くなりました。
私が弁護士になった時は、訴訟が始まって3~4年経っていましたが、先輩弁護士が行う主張・立証・尋問の全てが勉強になりました。その途中でドイツの炭鉱を視察しました。ドイツでは、ガス抜きを徹底的にやり、労働者の人権をきちんと守っているのですね。日本とはえらい違いでした。
さて、地下800mの状況を裁判官に理解させるのは至難の技でした。そんな中で弁護団長の広谷陸男弁護士は、工作の材料を買ってきて模型を作り、説得することを試みました。今ならコンピューターグラフイックなのでしょうが、当時はそんなことができる予算はありません。ところが、この地下模型が実によくできていて、ガスを抜かなかった会社の過失がものの見事にわかるのです。手作りの力を感じました。その結果、裁判所は会社の責任を認め、北炭が倒産する直前に和解で賠償金を支払わせることができました。
この事件は、「弁護士としての思考と立ち振る舞い」の全てを教えてくれました。本当に自分の勉強になり、良い経験をしたと思っています。
休日の過ごし方
最近、私は「源氏物語」にはまっています。源氏物語、読んだことあります?多分、現代語訳でさえ全部読んだことのある人はそうはいないと思いますけど、是非読んだ方が良いですよ。あれは日本が世界に誇れる文化遺産です。世界遺産の一つでしょう。
読んでみれば分かりますが、男女の本質というのは1000年前から、全く変わっていないんですね。いじめも嫉妬もあれば、不倫もある。人間というのは実に「業」の深い生き物なのです。
私は家事事件をライフワークの一つとしてやっているんですが、源氏物語のような古典に親しむ中で男女の本質を学ぶ、これが大切ですね。若い人達にも是非読んでほしいですね。あと、毎晩、寝ながら古典落語によって「人情の機微」を磨いております。
関心のある分野
家事事件と少年事件です。日弁連の子どもの権利委員会の委員になった時に、東京で「キラ星」のような素晴らしい先生方に出会い、目を開かされました。子どもに関わる事件というのは本当に難しいもので、判決で白黒つけるだけではうまくいくはずのない「非合理」の世界なんですね。
その後、私は家事調停官(パート裁判官)を4年やり、家事調停の奥深さと大切さを実感しました。家事事件というのは、本来、調停で解決すべきで、訴訟にしてしまうというのは、自分たちの力が至らなかったのだと反省すべきだと考えるようになりました。
離婚事件などは、男女の問題が中心であるように見えても、その中に必ず子どもがいますね。この子どもの視点を中心に据えて解決を考えなければなりません。弁護士はそのようなことを依頼者にきちんと説明して判らせる必要があります。相手方を説得するのではなく、自分の依頼者を説得できる力と見識ですね。
「依頼者の利益」というのは「依頼者の言いなりになる」ことではないことを肝に命じて仕事をしております。
ページを見ている方へのメッセージ
私は、家事事件とともに少年事件も結構やっているのですが、明日の日本を支えてくれるのは子どもたちです。子どもたちをもっと大事にしなければなりません。少年非行で一番傷ついているのは子ども本人ですが、それとともに親自身(特に母親)も世間の冷たい視線に傷ついているのです。
大きな少年事件が発生するといつも親が責められます。しかし、親を責めてはいけません。少年非行は「社会の鏡」なのですから。社会全体で、子どもとともに親をサポートする、それくらいの度量がないと、日本の未来はないと思います。