美を追求する女性たちの間で「まつ毛エクステンション(エクステ)」が人気だ。まつげ1本1本に対して、人工まつげを接着剤で装着することで、目をより大きくみせることができる。市販されている「つけまつ毛」を装着するよりも、自然な仕上がりになることから、満足している人も多い。
しかし、健康被害をうったえる人も多い。大学生のAさんは今年1月から2月にかけて、朝の支度の手間が省けるからと、ある美容室で施術を受けた。しかしグルー(専用接着剤)が肌に合わず、まぶたに付着して目が開けられなくなってしまった。さらに別の美容室で施術した際にもグルーが肌に合わず、まぶたが赤く腫れあがり、眼科に通院しなければならなくなったという。
Aさんは施術前に「グルーが肌に合わないこともある」と説明を受けていたので、しかたないとあきらめている様子だ。しかし、通院するような酷い状況になった場合、施術代の返還や通院費の請求ぐらいはできないのだろうか。南川麻由子弁護士に聞いた。
●国も「健康被害への注意」を呼びかけている
「デリケートなアイライン周辺に、接着剤という化学物質を使って施術するまつ毛エクステは、目や皮膚に健康被害が生じてしまうトラブルが後を絶たず、厚生労働省や消費者庁、国民生活センターなどが注意を呼びかけています。もし異常を感じたら、軽く考えずに、まずはお医者さんに相談しましょう」
南川弁護士はまず、このように切り出した。Aさんのように「被害」を受けている人が多数いるということであれば、なかには店の責任が問われるケースもありそうだが・・・。
「そうですね。施術をする店側は、顧客に対して、健康被害を生じさせないよう十分に注意して施術するという契約上の義務を負っていると言えます。
実際の施術の仕方や施術店側の事前説明の内容、健康被害の内容・程度にもよりますが、場合によっては、契約上の債務の不履行や不法行為を理由に、損害賠償請求をすることができると考えられます」
仮に、請求できる事例を考えるなら、どんな場合だろうか?
「たとえば、専門知識・技能を習得していない店員が、顧客の健康状態や体質等のヒアリングやリスクについての事前説明なしに施術をした結果、目の炎症・まぶた腫れや角膜損傷等の健康被害が生じたようなケースであれば、請求が可能でしょう」
店の責任については、店側の施術・説明内容を個別に検討する必要があるようだ。
●まつ毛エクステ施術には「美容師免許」が必要
ところで、施術を受ける際には、リスク説明を受けたうえで、承諾書類にサインを求められるケースもあるようだが、サインしてしまったらそれまでなのだろうか?
「もし、施術前に『施術を受けるのは自己責任であり、店側には一切の責任がないことを了承します』など、店側の責任を全面的に免責する免責条項の書類にサインをしていたとしても、消費者契約法によって無効だと主張できる可能性があります」
もし治療が必要なほどの健康被害が出たら、消費者センターや弁護士などにも相談すると良さそうだ。一方で、そういった事態にならないよう、注意すべきポイントはあるだろうか?
「美容師免許がないのに、まつ毛エクステの施術を行うことは、美容師法で禁じられていますが、実際は免許なしで営業をしているお店も少なくないようですので、この点はきちんと確認すべきでしょう。
また、美容師だからといって、必ずしもまつ毛エクステの専門知識・技能を習得しているとは限らないという実態もあるようです。お店の施術実績や評判などもチェックしたほうがよいでしょう」
南川弁護士はこう指摘したうえで、「利用者は、リスクもきちんとふまえたうえで、施術を受けるかどうかを判断したいところですね」と話していた。