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ダイヤモンド・オンライン連載企画/男性が相談しづらい美容整形トラブルの注意点

ダイヤモンド・オンライン連載企画/男性が相談しづらい美容整形トラブルの注意点

美容整形といえば女性がするもの、男性は関係ない、とお思いだろうか。10年前なら、まだまだ「男性が美容整形!?」という時代だったが、今や男性も立派なお客様。とくに男性の場合、美容整形に外見よりも、包茎手術など下半身に関わる改善を求める向きが多いようだ。他人には知られたくないことだけに、問題があっても相談したり訴えたりしづらく、そんな患者心理につけ込む悪徳病院もあるという。美容整形でトラブルに巻き込まれないために、注意すべきポイントを考える。

●十分に整っているのに本人は「許せない!」

 10年ほど前のある日。眉目秀麗なカップルが、連れ立って筆者が務める法律事務所を訪れた。弁護士として働き出してすぐの頃だったと思う。服装も実にファッショナブルで、古びた法律事務所の入り口が、一気に華やいだ雰囲気になったことをよく覚えている。

 聞けば、二人とも顔を何ヵ所も整形しているという。二人のうちの男性のほうが、鼻の形が気に入らないから整形手術のやり直しをしてもらいたいが、どうか、という相談だった。男性の美容整形手術について相談を受けたのは初めてだった。

 男性は、小鼻の膨らみが気になり、ここを整えたつもりだったのに、ちっとも整っていない。やり直しを求めたいが、美容外科からは再手術の費用がかかると言われた、許せない!と気色ばんでいる。筆者は、男性の綺麗に整った美しい鼻をまじまじと見つめ、いったい何が気に入らないのかと不思議に思った。

 美の基準は人それぞれである。筆者には十分に美しいと思われた小鼻だが、彼は納得が行かなかったのだろう。はたして、彼は美容外科にやり直しを求めることができるのだろうか?

●美容整形外科手術は「準委任契約」

 そもそも美容外科手術を行う契約の取り交わしは、民法656条の「準委任契約の締結」にあたる。準委任契約とは、民法643条の委任契約の変容形である。委任契約という言葉はよく聞くが、当事者の一方が、法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することで成立する。例えば、他人から訴訟を提起され困っている人が弁護士を訪ね、代理人として代わりに訴訟を闘ってもらう契約を締結するのが委任契約である。

 準委任契約は、この委任の対象が、「法律行為」ではなく、医療行為を含む「事実行為」である点が異なる。弁護士に訴訟を頼んだら委任契約で、美容外科医に整形手術を頼んだら準委任契約であるが、契約の性質はほぼ同じで、生じる責任・義務もほぼ同程度である。

 委任契約も準委任契約も、雇用契約や請負契約と同様、他人のために労務やサービスを提供する契約であるから、受任者は、委任された事務を処理する義務を負い、事務処理の際には、善良な管理者として、それなりの注意を払い、きちんと委任事項を達成する義務を負う。もし、委任事項を約束通りに達成することができないなら、委任者は契約を解除することができるし、解除しないまでも、受任者に対し、合意内容の完全な履行を求めることができる(民法415条の債務不履行)。

 さて、では本件の場合、委任者である男性は、美容外科医にタダで再手術をしてもらうことができるのだろうか?

 答えは、二人が交わした契約の内容による。準委任契約によって受任者が負う事務処理は、個々の契約によって異なるからだ。今回の手術の場合も、小鼻をどの程度整えるのか、事前にどれだけのコンセンサスがあったのかにかかってくる。

●「とにかくキレイに」はNG。明確な基準を示して契約を。

 例えば、あぐらをかいた団子鼻を小さく整えたいと思っていたとしても、具体的なイメージを含めて医者に伝えていなかったとしよう。医者は自分の「美」イメージのみに基づいて手術を施し、結果的に委任者の要望が実現されなくとも、委任者は何も言えないだろう。

 ところが、「小鼻の幅を4センチから3センチにする」など、明確な基準を示して契約締結したのであれば、その合意に反した手術は不完全なものであるから、民法415条の債務不履行の条項によって、完全履行を求める権利があることになる。

 したがって相談者の男性が、医者との間で詳しい取り決めをしていたのに、それが実現していないなら無料で再手術を求めることができるし、曖昧に「小鼻を綺麗に整える」程度の合意しかしていないのであれば、医者は「綺麗に整えたでしょ」と主張して再手術に応じないこともあり得る。

 美容整形の契約では、自分のイメージを具体的かつ明確に伝え、医者にイメージを共有してもらうことが大切と言えそうだ。美の基準は人それぞれで、「美しく」と言っても、十人十色の捉え方があるからだ。

 筆者が法律相談を始めてから10年。時代は様変わりした。当時は、まだまだ「男性が美容整形??」という時代だったが、現在の美容外科業界では、男性も立派なお客様。男性の美容外科手術をもてはやすウェブサイトも多く、海外のサイトでは、「ビジネスマンとして成功するには、疲れた顔ではダメ!」と、眼の下のたるみ切除手術を勧める広告などを頻繁に見かける。より美しく、より可愛らしくはいまだに女性の特権かもしれないが、ことアンチエイジングの分野では男性も負けてはいない印象がある。

 この分野では、現在「プチ整形」が幅を利かせている。コラーゲン注射やボトックス注射(筋肉を麻痺させる注射)など、手軽にできて費用も安く、大きな失敗にもなりにくい。だが稀に、コラーゲンの質が悪く肌から浮き上がってしまったとか、ボトックス注射の打ち過ぎで顔面が強ばってしまったなどの被害を聞く。

 こうした場合は、整形手術は失敗で、債務不履行に基づく損害賠償請求(民法415条)の対象になりうるであろう。さらに、最近では成長ホルモンを注射し、根本的に若さを取り戻すなどの治療もあると聞く。費用も莫大で、副作用も心配だが、富裕層には利用者が存在するようだ。副作用が生じた場合には、損害賠償請求などの法的措置も考えられるだろう。

●包茎治療に多い法外な手術費用を請求されるケース

 また、男性向けの美容外科で目立つのは、包茎手術やED治療など、下半身に関わるものの多さだ。男女共に若さを求めるのは同じだが、女性の場合は外見の美しさを、男性の場合は外見よりも男性性の改善を望む向きが多いのだろう。包茎治療については、法外な手術費用を請求されて契約解除を求めるケースが多数あるようだ。

 ウェブサイトなどには費用10万円程度と記載があるが、いざ手術という段階になり、医者が突然2種類の写真を持ち出してくる。どちらも手術後の写真で、機能的な面に限ればいずれも成功例ではあるが、“見た目”に関しては一つは仕上がりがよく、一つは仕上がりが悪い。仕上がりの良い写真のような結果を出すには高度な手術が必要で、当初の約束であった10万円ではなく、100万円以上の費用がかかるという。

 「どうしますか? あなたの一生の問題だから、高度な手術の方を選択すべきではないですか? クレジット契約も可能ですよ!」と詰め寄られ、患者はついサインをしてしまう、という事案。さあ、これから執刀という段階になり、不安な患者の心理を利用した詐欺に近い事例だが、消費者センターへの問い合わせが多く、解約事例も多い。

 美容整形は、病気を治すものではなく、患者のもっと美しくなりたい、自分に自信を持ちたいという願望を実現するものだ。半面、人に知られたくないものだから、失敗があっても訴え出る事が難しい。そんな患者心理に乗じた病院も多々存在するので、美容外科選び、そして契約段階での内容確認には、ことのほか慎重になる必要があるといえる。

*本記事で紹介した事例は、筆者が扱っている実際の例を元にしていますが、事実関係については一部省略等しており、正確なものではありません。

プロフィール

広瀬 めぐみ
広瀬 めぐみ(ひろせ めぐみ)弁護士 広瀬めぐみ法律事務所
家事調停官4年勤務の経験から家事事件に精通し、家事事件手続等につき弁護士会等で講師多数。専門家としての知識・見識と共に、依頼者から安心してお任せ頂ける優しさを心がけている。一般民事事件・刑事も扱う。

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