モノはいつかは壊れる。会社の備品も例外ではない。ボールペンやファイルなど、安価な品なら「仕方ない」で済まされるだろうが、パソコンやプリンター、椅子、デジカメなどのように高価な品物だと、問題視されるかもしれない。
だが、普通に仕事をしていても、何かの拍子にモノを落としたり、モノにぶつかったりすることはある。仕事上の事故や過失でモノを壊した場合、どこまでが「その人の責任」になるのだろうか。
特に共用で使っているモノの場合、目に見えない損傷が蓄積した結果、「最後の一押し」で壊れる場合もあるだろう。そんな場合、たまたま巡り合わせた誰かがひとりで責任を取らされるのは、不公平な気もする。
会社の備品を壊してしまった際、従業員が「弁償」しなければならない場合もあるのだろうか。もしあるとすれば、それはどんな場合なのだろうか。竹之内洋人弁護士に聞いた。
●「従業員は損害額の25%を負担すればよい」とした判例がある
「従業員が会社の備品を壊した場合、常に全損害を弁償しなければならないわけではありません」
このように竹之内弁護士は説明する。少し安心する話だが、実は裁判所の判例があるのだという。
「このようなケースについて、最高裁判例は、業務内容や労働条件、損害発生の経緯、事前予防策、保険加入などの損失分散策などの諸事情を踏まえ、損害の公平な分担という見地から、損害賠償請求を相当程度に制限する、としています。
そして、最高裁判例のケースでは、諸事情に照らして会社は、従業員に対して損害額の25%のみ請求できるとしました」
●損害のすべてを従業員に押し付けるのは不公平
なぜ、全損害の賠償ではなくてよいのだろう。どのような理由にもとづくのか。
「このような判断の背景には、会社は、従業員を使用することでもたらされる利益の全てを賃金として従業員に還元しているわけではなく、会社が取得する利益もあるわけなので、損害のすべてを従業員に押し付けるのは不公平だ、という考え方があります。
この考え方を押し進めると、仕事をしているなかで、ある程度は避けられない小さなミスによる損害については、一切弁償しなくてよい場合もあると考えられます。実際には、重大なミスの場合に、一部の弁償をしなくてはならないケースがあるという程度でしょう」
このように述べたうえで、竹之内弁護士は次のようにアドバイスしている。
「いずれにせよ、全額弁償ということはまずありえませんので、会社からそのような請求を受けたときは、弁護士に相談されたほうがよいと思います」