大手エステサロン「たかの友梨ビューティクリニック」で働く20代の女性従業員が10月29日、運営会社「不二ビューティ」に対し未払い残業代約1400万円と慰謝料200万円を求める訴訟を東京地裁に起こした。
女性は、長時間労働を強いられたにもかかわらず残業代を支払われなかったと主張。また、妊娠した際、軽易な業務への配置転換を希望したのに拒否されたとして「マタニティ・ハラスメント」を受けたと訴えている。
女性の代理人をつとめる小野山静弁護士に、今回の訴訟の意義や、女性が置かれていた労働環境について主張を聞いた。
●8時から23時まで働くも「正確な労働時間を記録させない」
「今回の訴訟の意義は、エステ業界における長時間労働の実態を明らかにするとともに、近年急増しているマタハラの問題を訴えていくという点にあります。
原告の女性も、今回の訴訟によって『たかの友梨ビューティクリニック』をはじめ、エステ業界全体が女性にとって働きやすい環境に改善されればと考え、提訴に踏み切りました」
訴状によると、女性は1400万円以上の未払い残業代があると主張している。これほど多額に及んだ背景には、何があったのだろう。
「『たかの友梨ビューティクリニック』では、エステティシャンの方たちは連日、午前8時頃から練習を行い、夜も午後11時頃まで練習や後輩社員の指導、カルテチェックなどを行っています。
そのため、今回の訴訟で請求している2年間だけで、残業時間は3000時間以上にも及んでいました。しかし、それだけの長時間労働をさせているにもかかわらず、『たかの友梨ビューティクリニック』は従業員に残業代を一切支払っていません。
そのうえ、朝の練習が終わった後にタイムカードの始業時刻を打刻し、夜の練習を始める前にタイムカードの終業時刻を打刻するという慣習を作り、従業員に正確な労働時間を記録させないようにしています」
●女性が受けたマタハラは「他の会社でもありうる」
女性は未払い残業代に加えて、妊娠に伴う配置転換を拒否されるといった「マタハラ」の被害も受けていたと主張している。この女性が受けたようなマタハラは「他の会社でもありうる」と小野山弁護士は説明する。
「被害女性は、産前休暇の取得を妨害したり、軽易な業務への転換や時間外労働のない勤務形態への変更を拒否されました。こういったことは、他の会社でもありうるものと考えられます。
特に、軽易な業務への転換や時間外労働のない勤務形態への変更の拒否は、明らかな労働基準法違反です。しかしそうとは知らずに、労働者から請求があっても、拒否したり無視したりしている会社は多いのではないでしょうか」
●「1人でも多くの人に訴え出てもらいたい」
今回訴訟を起こした女性は、出産3カ月前まで朝9時から22時までの業務をこなし、切迫早産という危険な状態に陥ったという。小野山弁護士は「マタハラの被害は、それを受けた人が出産や育児に追われて、なかなか声をあげることができないのが現状です。そういう意味でも、他のハラスメントより深刻であると考えられ、対策が急がれています」と語る。
小野山弁護士は「出産や育児をしつつ、会社と交渉をしたり、訴訟を起こすのは大変かもしれません。でも、私たち弁護士ができる限りの対応を行います。1人でも多くの方に、マタハラの被害を訴え出てもらいたいです」と、エールを送っていた。
なお、同社を巡っては仙台地裁でも、従業員2人が残業代支払いを求める裁判を起こしている。