成長戦略の中核として「女性が活躍できる環境づくり」に取り組んでいる政府は、その手段のひとつとして、女性の登用に積極的な企業に対して、補助金などの支援を検討している。8月上旬には、男女共同参画推進本部が、女性の活躍推進に取り組む企業などを補助金や公共調達で優遇できるようにする指針を決定した。
一方で、こうした「優遇策」に対しては、ネットでは「男性差別だ」という反対意見も見られる。先進国と比べて、女性の社会進出が遅れているとされる日本だが、こうした優遇策は「男性差別」になるのだろうか。高木由美子弁護士に聞いた。
●憲法14条「性差別禁止」の意味とは?
「憲法14条は、『すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない』と規定しています。
『女性が活躍する企業を優遇する措置』は、『性別』によって取扱いを変えるということですから、憲法14条違反なのではないかとも考えられます。
しかしながら、憲法14条は、ありとあらゆる場面で同じ取扱いをしなければならないという意味には、解釈されていません」
どういう意味だろうか?
「最高裁判所は、憲法14条の趣旨を『事柄の性質に応じた合理的な根拠に基づかない差別』を禁止することだと解釈しています。
つまり、男女で異なる取扱いをすることがあっても、その目的と手段に合理的な根拠があれば、憲法14条違反にはならないということになります」
それでは、国として「女性活躍企業」を優遇する制度はどうだろうか?
「まず、制度の目的ですが、少子化の中で、能力を生かしきれていない女性を有効活用することにより、将来的な労働力不足を解消する等だと考えられます。この目的には、一定の合理性があるといえるでしょう。
制度の「目的」に合理性があるとして、それを実現するための「手段」はどうだろう。
「企業への補助金や公共事業の入札の際に有利になることは、企業にとって女性活用の大きなモチベーションになると考えられます。そのこと自体には、合理性があるといえるでしょう」
●単に女性の数を増やせばいいわけではない
すると、全く問題がないということか?
「そうとも断言できません。問題があるかどうかを判断するためには、補助金などの対象となる女性活躍企業と認定されるための条件など、細かな点を見ていく必要があります。
それは、認定のやり方しだいで、手段が『合理的』でなくなってしまう可能性もあるからです」
どういうことだろうか。
「これまで男性中心で回ってきた業界では、『家庭のことは女性にまかせて、生活のほとんどを仕事に捧げることが当然』と考える経営者・従業員が、仕切っている職場もあるでしょう。
そのような職場に、家庭と仕事のバランスをとろうと考えている女性をどれだけ投入しても、女性が長く勤務し、活躍することは困難です。
そうした職場環境を変えなくても、ただ人数などの外観を整えれば優遇を受けられる制度だとすれば、それは『女性が活躍する』という目的を達成するための『手段』として、合理的な根拠があるとはいえません」
つまり、制度しだいでは、「憲法違反」とされる可能性があるわけだ。そうならないためには、どんなルールを作ればよいだろうか。
「最近は、男性でも、家庭と仕事のバランスを取りながら生活したいと考えている人が増えているようです。
女性が企業で活躍するためには、男性女性を問わず、家庭と仕事のバランスが取りやすい職場環境を整えることが、不可欠です。
もし『女性活躍企業』と認定された企業を優遇する制度をつくるなら、育児のための休暇制度や、遅刻早退制度、保育料支援などについて、男女問わず積極的に推進していることも、認定条件としていくことなどが必要でしょう」
高木弁護士はこのように指摘していた。