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「埋もれる」弁護士のハラスメント被害 、「自分で解決できる」と思われて相談できず
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「埋もれる」弁護士のハラスメント被害 、「自分で解決できる」と思われて相談できず

大分県内の法律事務所で勤務していた30代女性弁護士が自殺したのは、事務所代表だった元男性弁護士からの性被害が原因だとして、遺族が元代表と弁護士法人に損害賠償を求めた訴訟で、大分地裁は4月21日、約1億2800万円の支払いを命じた(被告側が控訴中)。

遺族は報道陣に「娘は弱かったわけでも、駄目な弁護士だったわけでもないことを知っておいてもらいたいと思います。他の弁護士と同じようにただ普通に仕事をさせてくれさえいれば、小さな名もない仕事にも責任を持って臨み、それを果たしていき、地元に、社会に、貢献できる弁護士になることができたのだと思うのです」というコメントを出している。

「弁護士のハラスメントの被害は埋もれている」。そう話すのは、弁護士同士のハラスメント裁判の被害者代理人をつとめたことがある高木亮二弁護士だ。代理人活動をきっかけに、弁護士からパワハラを受けて苦しんでいる弁護士を救出する活動を始めた。

高木弁護士は、弁護士業界におけるハラスメントには大きな特徴があると指摘する。詳しく話を聞いた。

●「弁護士なんだから」相談ためらう

高木弁護士は、いわゆる「ボス弁」と呼ばれる事務所の経営者からパワハラを受けた弁護士の代理人をつとめていた(訴訟は控訴審で和解)。「救える命を救いたい」と自身のHPに「弁護士のためのパワハラ相談特設ページ」を作ったところ、最も多く寄せられたのは「自分が受けている行為がハラスメントに当たるのかどうか」を尋ねる相談だった。

「ハラスメント被害者は、事務所の絶対的支配者から連日罵倒され、正常な精神が保てなくなります。自分の能力が足りないからいけないと思い込まされ、退職という合理的な判断ができなくなってしまっている。なので、洗脳を解くところから始まります。誰かが外部から手を差し伸べないと自殺してしまうのではないか、という事案もありました」

法律の専門家である弁護士でさえ、自らがハラスメントの被害者になれば、正常な判断をするのは難しくなってしまう。さらに、弁護士本人自身が「弁護士なんだから」と周りへの相談をためらうこともあるという。

こうした弁護士自身の認識に加えて、周りからの「自分で解決できるでしょう」という目線もある。

「弁護士会は個人事業主の集まりです。弁護士同士のトラブルに積極的に介入しようという弁護士はそんなにいません。法律家なんだから自分で解決できるでしょうと思っているんですね。誰も介入しないというのが、弁護士業界におけるハラスメントの大きな特徴だと思います」

被害から逃れるためには、その職場から抜け出すのが一番だ。ただ、弁護士の場合、仕事の関係からすぐには退所ができない理由もある。

「弁護士は依頼者一人ひとりの人生を背負っています。進行中の事件をたくさん抱えているので、簡単に辞めることはできません。仕事を投げ出して逃げたら迷惑がかかってしまいますし、責任感が強くて真面目な弁護士ほど、依頼者の顔一人ひとりが浮かぶと思います」

日弁連(日本弁護士連合会)をはじめ、各弁護士会には、弁護士からのハラスメントについての相談窓口がある。ただ、高木弁護士は「被害は埋もれていて、なかなか相談に辿り着かない。ハラスメントに接した第三者が弁護士会へ通報できるような制度が必要ではないか」と話す。

「優秀な弁護士が自殺でいなくなることは、本当に大きな損失です。弁護士は被害者にも加害者にもなりうる。みんなで問題意識を持つという意識改革が必要だと思います」(高木弁護士)

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