現役高校教員や大学教授などでつくる有志の会が3月16日、給特法(公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法)の抜本的な改善を求める8万345万筆のネット署名と要望書を文部科学省に提出した。
署名は2022年4月28日に「change.org」(インターネット署名サイト)で始め、3月12日時点で8万345万筆が集まった。コメントには「教員の仕事はボランティアではなくプロの仕事」「やりがいだけでは志望者は減るだけ」などの声が寄せられている。
現役公立高校教員の西村祐二さんは「せざるを得ない残業は、残業と認めるべきです。残業には、対価を支払わなければいけない。日本の未来を守るために、政治家に今決断をしてほしい」と給特法の改廃を求めた。
●「給特法」は残業を減らす大きな障壁
1972年に施行された「給特法」により、公立学校の教員には時間外勤務手当と休日勤務手当が支払われないことになっている。その代わり、「教職調整額」として、月額給料の4%が一律に支給されている。 時間外勤務を命じることができるのは、(1)生徒の実習、(2)学校行事、(3)職員会議、(4)災害など緊急事態からなる「超勤4項目」に限るとされ、労働基準法37条の時間外労働における割増賃金の規定が適用除外されている。
西村祐二さん(2023年3月16日、東京都、弁護士ドットコム撮影)
西村さんは、2017年ごろから会見を開き、教員の残業を減らすための方策として給特法の改正を訴えてきた。ただ、その残業を減らす大きな障壁として「給特法があると気がついた」と言う。
給特法の仕組みにより、「超勤4項目」以外の業務は、教員が自主的・自発的に判断して勤務しているものと整理されてきた。ただ、西村さんは現在の教員の残業は「やらされ仕事」であると強調する。
「学校現場には山のような業務があって、働き手としての責任感から放り出すことができないからやっている。しかし、給特法はその働き方を『自発的に志願してやったものですね』とみなす。働き手としてのプライドをズタズタにする扱いだと感じている」(西村祐二さん)
先日、公立小教員が残業代を求めた訴訟の上告が棄却された。西村さんは「司法は現場の教員を守ってくれない。この扱いに耐えきれない。働き手としてのプライド、そして命の問題です」と訴えた。
●乙武洋匡さん「日本の教育崩壊を食い止めたい」
乙武洋匡さんは「教員の待遇改善の話ではなく、日本の教育崩壊を食い止めたい。そうした思いでの署名活動であり、記者会見だ」と強調した。
乙武洋匡さん。この会見のために南米から日本に戻ってきたという(2023年3月16日、東京都、弁護士ドットコム撮影)
乙武さんは2007年4月から10年3月まで杉並区の公立小で任期つき教員として働いていたが、働き始めてすぐに「これは回らないよ」と思ったという。
「肌感覚で言うと、10人でやるべき仕事を7人でやっている。でも3人を雇う予算はない。残業代は出ていない。まさにやりがい搾取と呼ばれるものです。教師も人間、限界はきます」(乙武洋匡さん)
乙武さんは「給特法が廃止されれば、勤務時間を減らすインセンティブが管理職に働く。システムを変える必要がある」と訴えた。
労働問題にくわしい嶋崎量弁護士は「給特法によって当たり前の労働が労働にならない異常さ」を指摘した。
嶋崎量弁護士(2023年3月16日、東京都、弁護士ドットコム撮影)
「私学や国立大学法人などでは労働になっているものが労働にならない。不平等であると同時に非常識な状態。自主的や自律的というのは、労働法の世界では、労働であることを否定することにはならない。多くの労働者は自分の意志でも働いている」(嶋崎量弁護士)
これから文部科学省で給特法の見直しに向けた検討が始まる。朝日新聞の報道(2月22日)によると、自民党は(1)給特法を廃止し残業代を支給する(2)教職調整額を引き上げる(3)教職調整額を上げて役職手当をつける、の3案を検討しているという。
西村さんは「2と3は全く解決にならない。この案では、教師は定額働かせ放題のままで、残業を減らすことにつながりません」と訴えた。