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会社は従業員のSNSアカウントを制限できる? 自社製品を宣伝して「ステマ」疑惑で炎上トラブルも
フォロワーは約3.9万人いる美容インフルエンサーだった(アカウントは現在削除)

会社は従業員のSNSアカウントを制限できる? 自社製品を宣伝して「ステマ」疑惑で炎上トラブルも

化粧品メーカー「オルビス」の従業員が、ツイッターの個人アカウントで従業員であることを明らかにせず商品紹介をおこなっていたことが「ステマではないか」と話題となった。

問題となっていたのは、美容や化粧品に関するツイートを投稿していた女性のアカウントで、フォロワーは約3.9万人。現在、アカウントは削除されている。

●「社内ルールを徹底できていなかった」と弁明

「オルビス」は1月21日、公式HPなどで「入社以前からSNSにて弊社商品の投稿を行っており、入社後も発信を継続していた」「SNS投稿における社内ルールを徹底させることができていなかった」と説明し、謝罪した。

弁護士ドットコムニュースの取材に対し「HPにて公表している情報が全てで、個人情報の観点でお答えできない」と回答。結局、会社からの指示があったのか、女性が無断でツイートしていたのかは定かではない。

アカウントは2015年1月に開設されていた。オルビス側が主張するように、入社前から続けていたアカウントで悪意なくやってしまった可能性もあるのかもしれないが、所属を明らかにせず自社製品を宣伝するのはフォロワーの信頼を裏切ることになる。

果たして、こうした事態を防ぐために、会社は従業員の私的なSNS利用をどこまで制限することができるのだろうか。近藤暁弁護士に聞いた。

●従業員の私的なSNS、一定の制限をおこなうことができる

——会社は従業員の私的なSNS利用を制限できるのでしょうか。

従業員の私的な行為や意見表明などは、表現の自由や私生活上の自由に属するものであるため、最大限の配慮をしなければなりません。

一方、企業としては、企業の存立と事業の円滑な運営を維持するため、企業秩序を維持確保する必要があります。そこで、企業は、企業秩序を維持確保するために必要な諸事項を規則をもって一般的に定めることができることとされています(富士重工業事件、最三小判昭和52年12月13日)。

また、従業員は、労働契約に基づく誠実義務を負っており(労働契約法3条4項)、その一環として企業の名誉や信用を毀損するような行為を避けることが求められます。

このような観点から、企業は、従業員の私的なSNSの利用についても一定の制限を行うことができます。

●SNSすべてを禁止することはできない

——制限するためには、どのような規定が必要でしょうか。

従業員の私的なSNSの利用を制限するためには、まず就業規則やSNS利用ガイドラインなどの社内規程を整備することが必要となります。

特に懲戒処分を行うためには、懲戒の理由となる事由とこれに対する懲戒の種類・程度が就業規則などにおいて明記されていなければなりません。

これまで述べたとおり、従業員の表現の自由や私生活上の自由への配慮が必要であるため、私的なSNSの利用のすべてを禁止することはできません。

企業秩序の維持確保のための合理的な範囲においてのみ、その利用を制限することができます。

●秘密の漏えい、誹謗中傷はアウト

——「合理的な範囲」というと、具体的には?

例えば、企業に関係する情報を発信する投稿として、業務上知った秘密を漏洩するもの、企業や他の従業員を誹謗中傷するものなどを制限することが考えられます。

また、私生活の内容を発信する投稿であっても、それが法令や公序良俗に反し、ひいては企業秩序に影響を与えるものであれば、制限の対象となるでしょう。

今回のケースでは、従業員であることを明かさずに自社の商品に関する投稿を行ってはならないと定められていたとのことです。

企業との関係性を明らかにしないままマーケティング活動を行うことは、企業に対する消費者の信頼を損ないかねないものであるため、本件の社内ルールは合理的であるといえるでしょう。

●懲戒処分もありえるが…

——懲戒処分もありえますか。

このような社内規程の存在を前提として、実際に懲戒処分を行うことができるかを検討することになります。

法的に有効な懲戒処分であると認められるためには、問題とされる行為が懲戒事由に該当し、かつ、その行為の性質・態様その他の事情に照らして社会通念上相当なものと認められる必要があります。

再三述べているように、個人アカウントによる私的なSNSの利用については、表現の自由や私生活上の自由への配慮が求められます。

そのため、懲戒処分を行う場合には、事実関係を十分に調査した上で、処分の種類・程度につき慎重に検討を加える必要があります。

——「社会通念上相当なもの」というと、具体的には?

会社の名誉や信用を大きく失墜させるようなものでない限り、まずは軽度の懲戒処分(譴責や減給など)にとどめておくべきでしょう。

また、ここでいう相当性には、手続として相当かどうかも含まれることに注意すべきです。

就業規則などにおいて「懲戒処分を行う場合には懲戒委員会の討議を経なければならない」などと定められている場合にはその手続を遵守しなければなりませんし、そのような定めがない場合であっても、特段の支障がない限り、本人に弁明の機会を与えなければなりません。

——会社は投稿削除を命じることができるのでしょうか。

会社としては、従業員に対し、対象となる投稿の削除を求めることも考えられます。

ただ、私的な投稿である以上、業務命令として削除要請を行うためには就業規則などによる根拠規定が必要であり、また、実際に削除を行うのは従業員自身である以上、その実効性にも限界があります。

従業員が削除に応じない場合には、懲戒処分を決定する際の情状として考慮することになるでしょう。

プロフィール

近藤 暁
近藤 暁(こんどう あき)弁護士 近藤暁法律事務所
2007年弁護士登録(東京弁護士会、インターネット法律研究部)。IT・インターネット、スポーツやエンターテインメントに関する法務を取り扱うほか、近時はスタートアップやベンチャー企業の顧問業務にも力を入れている。

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