「アート引越センター」を運営するアートコーポレーション(大阪府大阪市)に対し、3人の元従業員が未払い残業代や、業務中の物損などの自腹負担によって天引きされた給与の返還などを求めていた裁判で、横浜地裁(新谷晋司裁判長)は6月25日、原告の主張を一部認め、計約210万円の支払いを同社に命じる判決を下した。
加入した記憶のない労働組合費の返還までは認められず、原告側が“最大の焦点”としていた「偽装労働組合」の問題が解決しなかったことから、控訴する意向を明らかにした。
●おおむね勝訴
原告らはアート引越センター横浜都築支店の元社員2人と、元アルバイト1人。いずれも2011年〜2013年の間に入社し、2016年〜2017年の間に退社。引越し作業とドライバーの業務に従事していた。
原告らが2017年10月10日に提訴して支払いを求めていたのは、以下の通り。
(1)未払いの残業代
(2)「引越事故賠償金制度」によって給与から天引きされた賠償金
(3)通勤手当
(4)業務に使用した私用携帯電話代金
(5)加入した記憶のない労働組合費
判決はこのうち、(1)未払い残業代の一部、(2)賠償金の全額、(3)通勤手当に相当する費用(この項目のみ、元アルバイト従業員に限る)の支払いを認めた。
判決文などによると、残業代の算定において、始業時間に争いがあったが、原告側の主張が認められた。
引越事故賠償金制度は、会社が顧客に事故の損害を賠償したとき、作業のリーダーに3万円を上限として支払わせるものだが、原告らが支払いに同意する「事故報告書」に事故の責任を認めて署名、捺印した事実がなかった。
それにも関わらず、1日の勤務あたり500円が給与から天引きされることもあれば、一度に7万円を支払ったこともあった。これを不当利得として、全額返還が命じられた。
退職後に報じられて批判があったことから、現在の同社では賠償金制度がなくなっているものの、退職前にさかのぼっての返金を拒否していた。
●元社員は「知らないのは怖いことだ」
原告の元社員で横浜市在住の佐藤美悠人さん(27)は、賠償金制度について「当時は労働者が払うもので当たり前だと思っていた。知らないのは怖いことだ」と振り返り、返還が認められたことは「当然」と話した。
●偽装労働組合の問題
一方で、同社の労働組合から控除されていた組合費計6万5000円の返還は認められなかった。
原告側は、役員選挙が行われていないことなど、組合が労働組合法5条2項の規定に反し、自主的に運営されたものではないとして、労働組合法上の労働組合とは認められないと主張していた。
しかし、原告らが給与から「組合費」として毎月1000円が控除されていることを認識しながら、退職直前まで異議を唱えず、また、定期大会に代わる書面決議に投票していることなどを理由に主張は退けられた。
代理人の指宿昭一弁護士は「労働組合の名に値しない偽装労働組合と呼んでいる。不当な判断だと思う」とし、控訴することを明らかにした。
アート社は編集部の取材に「本日の判決であり、判決文がまだ届いていないので、コメントは差し控えさせていただきます」とした。