郵便局の職員が販売ノルマとして課された「年賀はがき」をさばききれず、自腹で買い取ったり、金券ショップに横流しする「自爆営業」を余儀なくされているというニュースが話題になっている。
朝日新聞によると、ノルマ枚数はケースバイケースのようだが、中には1万枚を超える人もいるという。日本郵便の広報は「販売目標は適切で、未達成にも罰則はない」としている。しかし、中には上司から「給料泥棒」「辞めてくれて構わない」などと言われたり、人事査定への影響をほのめかされたケースもあるという。
このような「自爆営業」は、アパレル業界や家電業界など他の業種でも行われていると聞く。一般的に、会社が従業員に物品販売の営業ノルマを課し、未達成の従業員にペナルティとして不利益処分を行うことについて、何らかの法的な規制はあるのだろうか。労働問題にくわしい山田長正弁護士に聞いた。
●ノルマを課すこと自体に法的問題はない
「まず、従業員に対して物品販売の営業ノルマを課すこと自体に、原則として、法的な問題点はありません。特に営業社員にとって、販売量や売り上げ額が多いか少ないかが、とても重要な指標であることは周知のとおりです」
山田弁護士はこのように説明する。しかし、ノルマは会社が勝手に決めるものだ。非現実的なノルマを従業員に押し付けてもいいのだろうか?
「販売目標が誰から見ても明らかに過大で、遂行が不可能あるいは客観的に不相当であると認められるような場合には、例外的に違法となる余地はあるでしょう。
また、特定の人を退職させることを意図する等、嫌がらせ目的で過大な販売目標を課すような場合も、違法となる余地があります」
営業ノルマは会社の裁量が広く認められる部分といえるが、やはり無制限というわけにはいかないようだ。
●ノルマ未達成による「懲戒処分」は違法となる可能性が高い
それでは、ノルマ未達成を理由にした「不利益処分」についてはどうだろうか。
「販売目標未達成の従業員に対して、不利益処分を行うことの問題点ですが、それは『不利益処分の内容』によります」
具体的には、どんなケースならOKで、どんな場合はダメなのだろうか。
「たとえば、人事上の査定でマイナス評価をつけたり、それを受けて賞与額の減額を行うこと等は、通常、会社の人事権の範囲内であり、違法とされることは原則としてありません。
ただし、人事上の措置としての降職(たとえば部長職から課長職への降職)までいくと、ケースバイケースです。役職手当の減額がなされることで、既に保障されている賃金額が減額されることから、減額幅次第では違法となる余地があります。
他方、販売目標未達成の従業員に対して罰則(懲戒処分)を課すことについては、違法になる可能性が高いです。なお、就業規則に基づかずに、罰金を科すような場合には、違法であることは明らかなので、注意が必要です」
山田弁護士はこのように解説してくれた。
自分は「自爆営業」をしてまで、営業ノルマを達成すべきなのか……。そんな決断をする際には、こういった点を考慮するとよさそうだ。