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「義母が認知症」難航する相続、1人息子の夫は「半分で分割すればいい」本当に大丈夫?
画像はイメージです(KY / PIXTA)

「義母が認知症」難航する相続、1人息子の夫は「半分で分割すればいい」本当に大丈夫?

義母が認知症ですが、義父の遺産を半分ずつ相続すれば大丈夫なのでしょうか──。こんな相談が弁護士ドットコムに寄せられました。

亡くなった義父の遺産を相続するのは一人っ子である相談者の夫と義母の2人だけです。義母の症状は重く、判断能力はまったくない状態のようです。

夫は「法定相続の範囲なら半分ずつで問題ない。土地も母との共同名義にすればいい」と言っていますが、相談者としては不安を感じています。認知症の相続人がいる場合、代理人などをつけずに遺産分割しても問題ないのでしょうか。西山良紀弁護士に聞きました。

●法定相続でも「預貯金は遺産分割協議等が必要に」

──法定相続なら遺産分割協議などは不要になるのでしょうか。

まず、土地の登記について、「土地も母との共同名義にすればいい」とありますが、登記手続きの専門家である司法書士に確認したところ、相続人に認知症の人がいる場合でも法定相続分どおりであれば相続登記はできるようです。

次に、法定相続分であれば、遺産分割協議がなくても取得できる遺産は確かにあります。しかし、もっとも典型的な遺産である「預貯金」を遺産分割するためには、法定相続分どおりであったとしても、法定相続人全員による「遺産分割協議」、または「家庭裁判所での遺産分割調停・審判」が必要になります。

──認知症の相続人がいるようですが、そのまま手続きを進めても問題ないのでしょうか。

遺産分割の手続きをするためには、意思能力(自分自身の行為の結果を理解できる能力)が必要になり、意思能力がない場合には遺産分割手続きをすることはできません。

本件の場合、認知症の程度が重く判断能力がまったくないということであれば、意思能力がないと思われますので、義母は遺産分割の手続きをすることはできず、預貯金の遺産分割をすることはできません。

●遺言あれば「遺産分割協議は不要」

──意思能力がない相続人がいる場合、相続手続きをどう進めればいいのでしょうか。

本件の義母のように認知症の程度が重度の場合には、意思能力が認められず遺産分割協議ができないため、家庭裁判所に成年後見の申立てをする必要があります。そして、裁判所が選任した後見人と夫との間で遺産分割協議をすることになります。

もっとも、認知症の程度も様々であり、軽度の場合など意思能力が認められるのであれば、認知症の人でも有効に遺産分割協議を行うことができます。意思能力があるかどうか判断に迷うような状態であれば、医師に相談されるとよいと思います。

──今回のケースで、相談者や夫が義母の代理を務めることは可能なのでしょうか。

本件の場合、夫と義母はいずれも法定相続人であり、形式的に利益が対立する恐れがあるので、裁判所は相談者や夫を成年後見人には選ばないと思います。弁護士か司法書士を成年後見人に選任されるのではないでしょうか。

今回のようなケースでも、義父の遺言があれば遺産分割協議は不要なので、遺産分割のために成年後見の申立てをする必要もありません。

自分の死後、配偶者が認知症になって本件と同じような事態になってしまうのではないかと心配されている方がいれば、子どもを遺言執行者とする遺言書の作成を検討されてみてはいかがでしょうか。

プロフィール

西山 良紀
西山 良紀(にしやま よしのり)弁護士 リライト神戸法律事務所
兵庫県弁護士会所属。 離婚・男女問題、遺産相続、労働問題、債権回収などを多く扱う。 昼食の大半はラーメン。鶏がら・豚骨から出汁をとってラーメンを自作することもある。独立する際に、前所属事務所からもらった餞別は寸胴鍋とオリジナルラーメン鉢。

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