ある男性と長らく体の関係が続いていた40代女性。男性の彼女にバレてしまい、「刺し殺す」というメールがきたと弁護士ドットコムに相談を寄せています。
女性には10年ほど前から、体の関係がある男性がいました。数年前、男性に彼女ができても、その関係はズルズルと続いていました。最近は「彼女にバレた」というので、女性は会うのを断っていました。
そんな中、男性の彼女から「今婚約中で今年結婚する予定なので、今後貴方と会ってる証拠掴んだら慰謝料請求させて頂きます」とのメールが届きました。
その中には「本当は貴方のこと刺し殺してやりたい気持ちでいっぱいだけど、彼更生するみたいだからこれで終わりにしてあげます 」「マジで連絡してくんなよ糞ババア それか死んでください」と言った攻撃的な言葉も含まれていました。
女性は「連絡してしつこくしてきたのは彼」と主張し、「逆に脅迫罪で訴えることはできますか」と尋ねています。こうした攻撃的なメールは、罪に問えるのでしょうか。富永洋一弁護士に聞きました。
●婚約後であれば「不法行為」になりえる
ーー男性は婚約中だったそうですが、相談者の女性との関係が続いていました
「ひとたび婚約が成立した場合、婚約者としては婚約相手に対して貞操を守る義務を負うと考えられます。もし、婚約後に他の女性と性的関係に及んでしまった場合は、入籍前であっても不法行為として慰謝料の支払義務を負うことになるでしょう」
ーー今回のケースでは、相談者の女性の責任も問われますか
「今回脅された女性側が、その男性に婚約者がいることを知った上で性的関係を続けていたとしたら、その女性も男性と共同して貞操義務を破ったものとして、いわば共犯として男性とともに婚約相手の女性に慰謝料の支払義務を負う可能性は高いでしょう」
●浮気相手を脅してもいいことにはならない
ーー女性は男性の婚約者である女性から脅されています
「仮に、女性が知りながら性的関係を続けていたとしても、日本では復讐による実力行使は認められていません。そのため、婚約相手の女性が浮気相手の女性を脅してもいいということにはなりません。
今回のケースでは、婚約相手の女性から『本当は貴方のこと刺し殺してやりたい気持ちでいっぱい』というメールを送信しており、このようなメールを受け取れば、普通は恐怖心を抱くような内容です。
『これで終わりにしてあげます』というフォローがあるとしても、このようなメールは刑法上の脅迫罪(刑法222条)に当たると考えられます。
ですので、このようなメールを受け取った女性側が、脅迫罪で警察に被害届を提出したり、刑事告訴をしたりすることは可能でしょう」
●脅した女性が、実際に逮捕される可能性は低そう
ーーでは、婚約者の女性が罰則を受けることになりますか
「婚約相手からすれば、本当に殺してやろうとまでは思ってないでしょうし、本心としては彼と別れて欲しい一心で、行き過ぎたメールを送ってしまった面も否めないと思われます。
実際には、このようなケースでは、脅迫罪で被害届や刑事告訴がなされたとしても、
(1)1回的なメールであること(2)『これで終わりにする』などの文面から真に執拗な殺意までは窺われないこと(3)浮気された婚約相手が一時的に感情的になるのもやむを得ない情状酌量の余地があること、などの事情から、実際に逮捕されたり、刑事罰を受けたりする可能性は低いでしょう。
もっとも、警察としても何もしないわけではなく、メールを送った本人から事情聴取をしたり、このようなメールを送らないように厳重注意をするなどして、反省を促すことはするでしょう」
●浮気された側も冷静に
ーー脅迫メールが頻繁に来たらどうすればいいですか
「警察においても見過ごすことはできなくなり、場合によっては逮捕されたり、刑事処分に発展したりすることもありえるでしょう。
実際に、不倫相手に対して暴行・脅迫などの復讐をしてしまったがために、かえって慰謝料請求しにくくなったり、暴行・脅迫を理由に被害届が出されたり、不倫相手のほうから逆に慰謝料請求されてしまった事例なども珍しくありません。
浮気された側においても極力、冷静な対処を心がけるよう注意が必要です」