「パートナーに勝手に離婚届を提出され、自分が知らない間に離婚が成立していた」。あるいは、「妻が子供を連れて家出したと思ったら、いつのまにか離婚届が役所に出されていた。親権も取られていた」。こんな「知らない間に離婚が成立していた」というトラブルは珍しくないという。
なぜ、そんなことが起こるのか。多いのは、数年前に夫婦でケンカしたときに、勢いで離婚届を書いて、提出しないままペンディング状態になっていたところ、突然、一方が勝手に役所に出してしまったというものだ。ケンカがおさまった後も、離婚届を「切り札のカード」のように保管している人が結構いるようなのだ。
数年前に書いた離婚届であっても、役所が受理すれば、離婚は成立してしまうのだろうか。また、そもそも離婚届を勝手に提出されないために、どういう手を打てばいいのか。離婚問題にくわしい植田薫弁護士に聞いた。
●勝手に離婚届を提出されないための手段とは?
「いったん離婚届を書いてしまっても、届出時に届出の意思がなければ、離婚は無効になります。しかし役所は、たとえば数年前に作成された離婚届について、その作成時期を調査したり、届出の意思を調査したりしません。したがって数年前に書かれた離婚届でも、受け付けられ、戸籍に記載されてしまうことがあります」
このように植田弁護士は説明する。こんな事態はなんとか回避できないのか。
「そのような事態を防ぐための制度として、『離婚届不受理申出』というものがあります」
離婚届を受理しないように申し出るということだろうが、具体的にはどんな制度なのだろう?
「離婚届不受理申出は、本籍地の市区町村長に対して、書面でおこないます。これで、自分の意思に反した離婚届が受理されることが防げます。申出に基づいて、提出された離婚届が不受理扱いになると不受理処理の記録が残されるので、一安心です」
この離婚届不受理申出の有効期間は、以前は6か月とされていたが、法改正により、いまでは無期限とされている。つまり、取り下げないかぎり、「不受理申出」は有効ということだ。
●もし離婚届が受理されてしまったら大変だが・・・
では、このような不受理申出が間に合わず、相手が勝手に離婚届を提出して、受理されてしまった場合、どうしたらいいのか。
「届出時に届出の意思がなければ離婚は無効ですから、戸籍に離婚の記載がされてしまっても、離婚は無効であるという裁判を起こして、戸籍を訂正することになります。無効な離婚届が提出されたことを知りながら放置しておくことは、大変危険です。届出が有効になってしまうかもしれません」
また、相手が離婚届を持っているが、まだ提出していないという場合には、「届出意思の撤回行為」も後日の証明の観点から有効という。「離婚届をもっている配偶者に届出しないように伝え、それを証拠にしておくことです」。
また、自分の浮気が原因で、離婚届を「質」に取られてしまったということもあるかもしれない。そんなときには「配偶者には内緒で、文書作成日の証拠を作っておくとよいでしょう」と植田弁護士はアドバイスしている。
【追記】初出時、離婚届不受理申出の有効期間についての記述が誤っていましたので、訂正いたしました。(9月26日11時10分)