子どもがいる夫婦が離婚するとき、後回しにできない問題が「親権」のゆくえだ。子を育てる権利である「親権」は、離婚の際、必ず「どちらか一方」の親に決めなければならない。離婚届にも記入欄があり、そこが空欄だと、届出を受け付けてもらえない。
「子育ては母親がするものだ」という風潮が以前はあった。いや、いまもそういった考えは残っており、親権は母親に認められることが多いようだ。しかし一方で、育児を率先して行う男性を意味する「イクメン」という言葉が一般化し、厚労省もそれを積極的に推進している状況がある。
そんな時代だからか、ネットの相談サイトにも、「親権をもらえるでしょうか」と案ずる「母親」の声が数多く寄せられている。なかでも「経済的な理由で親権が認められないのでは?」と心配する、主婦からの投稿が目に付く。
確かに収入が少なければ、子育てをするのも大変には違いないが……。はたして母親の収入と親権のゆくえは、どれだけ密接に結びついているのだろうか。離婚問題にくわしい高橋善由記弁護士に聞いた。
●親権を決めるために考慮される5つのポイント
「親権者を決める基準としては、父母のどちらが親権者となるのが『子の福祉』(子の利益)に適合するのか、というのが重要です。子どもが安定した生活環境で過ごすためには、どのようにすればよいのか、ということです」
このように高橋弁護士は、親権決定のポイントについて説明する。実際に調停や裁判になった場合、次のような点が考慮されるという。
(1)母性の優先(特に乳幼児の場合)
(2)経済的能力・資産状況
(3)現状の尊重
(4)子どもの意思の尊重
(5)きょうだい関係の尊重
今回のケースで、問題になるのは「(2)経済的能力・資産状況」という点だ。具体的には、どのような事情が考慮されるのだろうか。
●収入が少なくても、親権者になることはできる
「これは、養育費や生活費を確保できるかどうかということです。ただし、自分の収入だけでは子どもとの生活が厳しいからといって、親権者になることができないというわけではありません。配偶者から養育費を支払ってもらうことによって、生活ができるのであれば、親権者になることは可能です」
このように高橋弁護士は述べる。つまり、親権を主張する側の経済的能力や資産状況は重要だが、それだけで決まるわけではないということだ。
「仮に収入が少なくても、配偶者から養育費を支払ってもらうことにより、収入が少ない部分の埋め合わせをすることができますので、基本的に、収入が少ないことで親権が認められないという結論にはなりません。
しばしば、収入の多い夫が、『妻は収入が少ないので、妻のもとでは養育ができない』という主張をすることがありますが、これに対しては、『夫がきちんと養育費を支払ってくれれば、養育には問題がないので、きちんと支払ってください』と反論すればいいのです」
収入と親権の関係について、こう説明したうえで、高橋弁護士は次のようにアドバイスしている。
「親権者を決めるにあたって、収入が少ないからと言ってあまり心配する必要はありません。実際には、『母性の優先』や『現状の尊重』など、さまざまな要素を踏まえて判断することになりますので、総合的に見て、自分が親権者としてふさわしいことを自信を持って主張していただきたいと思います」