50歳前後の結婚「アラフィフ婚」がじわりじわりと増えている。出産育児を想定せず、男女とも余生を見据えているのが特徴だ。
雇用均等法第一世代やバブル世代に当たるこの年代は、育児と仕事の両立が今よりずっと困難で、寿退社や女性の年齢=クリスマスケーキ論がまかり通った時代を生きてきた。仕事や介護が背景にあったり、何となくだったり、独り身だった理由はそれぞれだが、後半の人生を共にするパートナーを見つけ、歩み始めている。(ライター・滝川麻衣子)
●きっかけは入院
今年の1月に入籍した藤本香さん(49)=仮名=が結婚を本気で考えたのは、子宮筋腫の発覚がきっかけだった。アパレル業界で長年働く藤本さんは、柔らかな声が印象的な鈴木京香似の美人だ。
病気が見つかるまでは、現場の教育係として全国を飛び回る日々を過ごしてきた。しかし、手術と療養のために1カ月の休職をすると、立ち止まらないわけにはいかなかった。ふだんは明るい藤本さんも、さすがに「この先の人生を考えて心細くなった」という。離れて暮らす家族とも「生存確認」と冗談めかしながら、毎日連絡をとるようになった。
そんなところへ「結婚してください」と、交際相手からの直球のプロポーズ。友人の紹介で知り合い、交際期間は3年を迎えていた。とくに結婚に執着はなかったのが、気づけばすんなり受ける心境になっていた。相手は8歳年上の会社経営者で初婚、藤本さんは二度目だ。最初の結婚は20代で、子供はいなかった。
結婚を機に、生活は激変した。新婚生活はじきに90歳を迎える夫の母と同居だ。義母の年齢を考えて「一日でも早く仲良くなった方がいい」と考えたからだ。
「いっぺんにいろいろできないので、忙しい仕事はここで区切りにしよう」。それなりの収入もポジションも得ていたが、会社は辞めることにした。今後はゆとりをもって働きたいと、資格取得の勉強を始めている。
●母を一人にしてしまう
「奇跡の初婚同士だったんですよ」。
大手メーカーで広報キャリアの長い熊沢ほしみさん(58)は朗らかに笑う。PR畑の長いひとらしい、気さくな雰囲気の女性だ。2年前、56歳でジューンブライドとなった。夫は当時58歳、スポーツジム仲間のひとりで、趣味のゴルフにバーベキューにと10年来の友人だった。
長い友人関係に変化を起こしたのは周囲だ。とくに仲の良かった男女4人の独身者のうち、先に1組が結婚。「あなたたちもさっさと決めないと友達やめるよ!」と冗談半分本気半分に背中を押されるうちに「一緒に住もう」。相手は覚悟を決めていた。
熊沢さんはそれまで、母親と猫と実家暮らし。父親は早くに先立ち、妹は結婚、「自分がいないと母を一人にしてしまう」とずっと思っていた。交際や結婚話もあったものの結局、結婚に踏み切ることはなかった。
職場環境も、熊沢さんが20代30代の頃と今とでは大きく違う。入社翌年に男女雇用機会均等法が制定され、結婚後も仕事を続ける女性は、社内にも徐々に増えていった。しかし、ショールームの制服にはマタニティタイプがなく、お腹の大きな女性はそっと肩を叩かれる時代だった。
仕事をすることも、母の介護も、受け止めてくれたのが今の夫だった。
●未婚者も右肩上がり
データでみると50歳前後の結婚は、全体に占めるボリュームは小さいものの、時代と共に着実に増えている。政府の人口動態統計(2015年版)によると、2015年の初婚件数は45~49歳の男性8796件で30年前の約7倍、女性は3813件で約3倍。50~54歳では男性2950件で30年前の8倍、女性は1169件で約1.5倍となっている。再婚件数にしても、男女ともこの年代は30年間で倍増だ。
ただし、50歳前後での結婚に踏み切る人の数自体は増えていても、それ以上のインパクトで未婚者が増えているのも事実だ。国立社会保障・人口問題研究所が45~49歳と50~54歳の未婚率の平均と定義する「生涯未婚率」は、2015年国勢調査によると男性23.4%、女性14.1%。この30年で男性は5倍、女性は3倍に増え、同研究所は今後も右肩上がりを推計する。
●独身プレッシャーは人権侵害レベル?
晩婚・晩産が進み、未婚者は増えていても、結婚にまつわる年齢の呪縛はいまだ根強い。生殖年齢の差なのか、とりわけ女性にその傾向は顕著だ。
都内の会社員女性(34)は「日本は結婚していないとダメという価値観が強すぎてもはや人権侵害」という。会社では気を使わせないよう自虐キャラを演じざるを得ず、実家に帰省すれば「子供はいいぞ」「ずっとひとりだと大変よ」と、両親からの‶攻撃〟も容赦ない。
「私だって結婚したいけど、そんなに簡単じゃない」。事情も知らずにつぶてを投げてくる周囲に、理不尽さを感じずにいられない。
アラフィフ婚は、‶呪い〟に苦しむ女性たちの希望となるのだろうか。
90年代初頭に大手製造業へ入社し、国際畑を歩んできた沢野ゆり子さん(47)=仮名=は昨秋、高校の同級生と婚約した。海外赴任から帰国した2年前、同窓会で再会した。仕事優先だったわけでも、独身主義だったわけでもない。「人生で初めて本当に結婚しようという人に巡り合った」のが、今の年齢だった。
未婚と加齢にまつわる‶社会圧〟に苦しむ女性たちに、沢野さんは「年齢でジャッジされて自分には価値がないんじゃないかと、思わないでほしい」という。出産年齢に限界があるのは事実だ。けれど、たとえそこを越えても「いくつになっても出会いはあるし、人には年齢だけじゃない個性がある」。自身を振り返り、そう思うからだ。