視聴率27.2%を記録するなど、大ヒットとなっているNHK朝の連続テレビ小説「あさが来た」について、妾をめぐる議論が起こった。きっかけは、ニュースサイト「NEWSポストセブン」が11月19日に掲載した、<小林よしのり氏「『あさが来た』は絶対に妾を描くべきだ」>というタイトルの記事だ。
主人公・あさのモデルは、幕末に生まれた実業家の広岡浅子だが、史実では、彼女と夫との間には娘しか生まれなかったため、実家から連れてきた女中を妾にして、彼女が産んだ男児を跡継ぎにしたとされている。このため、ドラマでも、今後、ヒロインの夫・新次郎が妾をとるかどうかが、注目ポイントになった。
NEWSポストセブンの記事では、現代の朝ドラの視聴者には、夫が妾を作るという展開が受け入れられないのではないかと指摘する声があることを紹介。小林よしのり氏の「正妻と妾の葛藤や、当時の道徳観を描いてこそ、本物のドラマ」とのコメントを掲載していた。
現在でも、不倫や浮気をする既婚者は少なくないが、妾がいるという男性はあまり聞かない。現在の制度のもとでは、妾をもつことは、法律に違反することなのだろうか。山本直樹弁護士に聞いた。
●現在の法制度では「妾」契約は無効
「歴史上、『妾』がどのような存在であるのかという点について、様々な意見があるところだと思います。
ただ、現在では、仮に妻子ある男性が、他の女性を妾にする契約を結んだとしても、裁判所は、契約自体が公序良俗に反するとして無効と判断するでしょう。そのため、現在の法律では『妾』は許容されていないといえます。
また、配偶者のある者が重ねて婚姻をしたときは、刑法184条の重婚罪により処罰されることになりますし、別の女性と不倫関係になった場合は、不法行為として損害賠償責任を負ったり、法律上の離婚原因にあたることになります」
●当時、現在の民法はなかった
ドラマの舞台になった江戸時代には、跡取りを生むために妾をつくることがあったようだが、愛人との間に生まれた子どもの取り扱いについては、現在はどうなっているのだろうか。
「現在の法律関係でも、法律上の婚姻関係にない男女の間に生まれた子(嫡出でない子)について、その子の父は、認知によって法律上の父子関係を成立させることができます。また、子の側から、裁判で認知を求めることができます。
相続について、以前は、嫡出でない子には、法律上の夫婦の間に生まれた子(嫡出子)の相続分の『2分の1』しか相続できないとされていたことがありましたが、2013年に最高裁が違憲であると判断したため、現在は法律が改正され、法定相続分に差はなくなりました」
当時は、現在の法律とは違う法制度だったのだろうか。
「『あさが来た』のヒロイン『あさ』のモデルとなっている広岡浅子氏は、嘉永2年(1849年)の生まれで慶応(1864年〜1868年)の初めころに夫と結婚しています。
民法の成立は明治29年(1896年)、刑法の成立は明治40年(1907年)であり、その後も改正が行われて現在の法律になりました。
ドラマの主な舞台となっている時代には、これらの法律はまだありませんでしたから、当時は法律も人々の価値観も、現在のものとは異なっていたのではないでしょうか」
山本弁護士はこのように述べていた。