離婚では夫婦のどちらか一方ではなく、双方が離婚原因を作ってしまうこともあります。弁護士ドットコムには、夫婦それぞれに不倫歴のある女性から相談が寄せられました。
相談者は自身の不倫が夫にバレたといいます。LINEでのやり取りやホテルでの写真等の証拠もあり、言い逃れはできません。かねてより相談者は、夫からDVやモラハラを受けており、今回の発覚で離婚することを覚悟しました。
そこで、相談者が離婚の意思を伝えますが、夫は暴れ出し「離婚すると言うのなら自殺する」と自身に包丁を突きつけたため、その場では離婚を撤回せざるを得なかったそうです。
しかし夫も過去に数人と不貞行為を行っており、夫婦関係の改善は困難だと相談者は考えています。夫と不貞相手とのLINEの記録もあり、DVによる傷の痕も少し残っている他、相談相手である母親や友人の証言があります。
離婚訴訟となった場合、相談者だけでなく、夫にも離婚の原因があると主張することはできますか。森本明宏弁護士に聞きました。
●離婚理由は「双方にある」と主張できる?
ーー相談者だけでなく、夫にも離婚理由があると主張できますか
ご相談のケースでは、夫も過去に数人と不貞行為を行っていて、その不貞相手とのLINEの記録があること、夫からDVやモラハラを受けており、DVによる受傷の痕が残っていること、母親や友人の証言もあるとのことです。夫にも不貞行為や暴力等を原因とする有責性が認められる見込みがあります。
ただし、実際の争いの場面では、やり取りしたLINEのメッセージの文面によっては、夫が不貞行為を否定したり、傷の痕の程度が少しであることをいいことに、DVを否定したりすることもあり得ますので注意が必要です。
また夫の不倫が発覚したのが数年以上前で、相談者がそれを知ったのにもかかわらず夫婦関係を継続していた場合には、今回、夫婦関係が破綻した理由として認められにくい可能性もあります。
ーーもしも離婚理由として認められた場合には、相談者だけでなく、夫も有責配偶者となるのでしょうか
夫の有責性が認められる場合、相談者にも不貞の証拠がありますので、夫と妻の双方に有責性が認められ、双方とも有責配偶者ということになります。
有責配偶者とは、婚姻関係の破たんを招いた原因について主として責任のある配偶者のことを指しますが、今回の案件では、夫と妻の双方に婚姻関係の破たんを招いた原因について責任が認められ、双方が有責配偶者と評価される可能性があります。
ーー慰謝料は相殺されるのでしょうか
双方に離婚の原因がある場合には、双方が慰謝料の請求をし合うことが想定されますが、双方の原因の大きさが概ね同程度といえるような場合には、お互いの慰謝料請求が認められないということが考えられます。
したがって、単純に相殺するのではなく、証拠関係に基づいて、夫婦のどちらにより大きな原因があったといえるかの検討をふまえた上での決定となります。
最後に、離婚を理由に自殺を仄めかした夫の行為ですが、脅迫罪あるいは離婚の撤回を求めるものとして強要罪に該当する可能性はあります。