夫がうつ病で休職中という女性からの相談です。うつ病になる前から結婚生活は冷え切っていたといいます。また、女性は30代半ば。出産も考えると、このまま結婚生活を続けられないという気持ちに傾いているようです。
金子宰慶弁護士は「配偶者のうつ病」を理由に、離婚が認められることの難しさについて解説しています。
(質問は弁護士ドットコムの法律相談コーナー「みんなの法律相談」に寄せられた相談をもとに編集部が作成しました)
Q. 「ツレのうつ」を理由に離婚は認められますか?
夫が職場での人間関係が原因で、うつ病になってしまいました。現在は会社を休職し、心療内科に通院しています。
このような状況がすでに半年以上続いていて、夫に気を使い続ける生活に、だんだんと疲れてきました。
私も日中は働いていますが、夫は家事をやる気力もないようで、出勤前と帰宅後の家事を一人でこなすのはかなりの負担感です。
また、私は30代半ば。出産のことを考えると、このまま結婚生活を続けることに、焦りも出始めています。
うつ病になる前から、夫婦関係も冷え切っていました。夫や夫の家族には申し訳ないという気持ちもありますが、離婚したいのです。
でも、夫が受け入れるかはわかりませんし、もし調停や裁判になった場合、そんな理由で離婚が認められるのかも不安です。
A. 「うつ病のみを理由に、訴訟で離婚判決を得ることは非常に難しい」
確かに、配偶者がうつ病となることにより、夫婦の関係に多大なストレスを生じることはありえます。
ただ、うつ病といっても、精神病院に入院をせざるをえないような場合もあれば、病気を抱えながらも仕事をすることができるケースもあり、さまざまな程度があります。
民法が離婚原因として定めているのは「強度の精神病」ですから、軽度や中等度のうつ病であれば、そもそも離婚原因にはあたらないと考えられます。
では、重度のうつ病であれば離婚できるのでしょうか。まずは「回復の見込みがない」とまでいえるかが問題になります。
仮にこの要件を満たすとしても、判例は次の2つについて、具体的方策を確保することを求めています。
(1)配偶者の離婚後の生活費
(2)病院などの引受先
つまり、うつ病のみを理由に、訴訟で離婚判決を得ることは非常に難しいです。
たとえば、うつ病が原因となって別居することになり離婚訴訟にまでなった事案で、一審と高裁の結論が異なったケースがあります(名古屋高裁平成20年4月8日判決 家月61巻2号240頁)。
この夫婦は別居してから3年3カ月が経過していましたが、高裁判決では「妻のうつ病が治癒し、あるいは妻の病状についての夫の理解が深まれば、婚姻関係は改善することも期待できる」として、離婚を認めませんでした。
このように、裁判所は、うつ病の患者さんに相当程度配慮していると考えられます。
(弁護士ドットコムライフ)