マイホームの頭金をめぐって、元夫とトラブルになっている――。こんな相談が弁護士ドットコムに寄せられています。
相談者の女性は数年前に、夫婦の共有名義でマイホームを建てました。その際、女性の父親に頭金を建て替えてもらったそうです。その後、離婚することになり、女性は元夫に対して、頭金を「(父親から)借りたお金」として、返済するようもとめました。しかし、元夫は「もらったお金」と主張して、返済に応じていません。
女性の父親は当時、「利子はつけなくていい」「返済のめどがついたら返してくれれば良い」と話してたそうです。また、頭金に関する書類や領収書も手元に残っています。
離婚時の財産分与は半々として、家は共有名義から女性名義に変更されていますが、このような場合でも、元夫から頭金を返してもらえるのでしょうか。上将倫弁護士に聞きました。
●「返還の約束」を証明するのは容易でない
——今回の頭金の援助は「もらったお金」なのか「借りたお金」なのか、どちらだと判断されるのでしょうか。
「贈与」と「貸しつけ(金銭消費貸借契約)」の違いは、返還の約束があるかどうかにあります。
問題は、その「返還の約束」があったことを証明できるかどうかです。
「自分への返済なら利子をつけなくていい」「返済のめどがついたら返してくれればいい」というやり取りがあったのだとすれば、貸金であったことを窺わせるやりとりといえます。このようなやりとりを証明できれば、「貸しつけ」であると認定されるでしょう。
ただ、当時の会話の録音などがなければ、証明はなかなか難しいのが現実です。
——お金のやりとりとはいえ、家族間の会話をわざわざ録音しているケースは少なそうですね。
貸金だったとしても、その相手が元夫だといえるのか、相談者に貸したということにはならないか、という問題もあります。
自宅は夫婦の共有になっていたということですから、貸付の相手が元夫だけとは限らず、半額だけが元夫への貸付であるという場合もありえます。このあたりについても、当時のやりとりを証明する必要があります。
なお、父親が頭金の領収証を持っているという事実は、父親が頭金を支払ったことを証明するものではありますが、必ずしもそれが貸しつけであることを証明するものとはいえません。ただ、領収証を父親が保管するに至った経緯によっては、貸付であることを窺わせる事情になる場合もあるでしょう。
●財産分与のやり方が認定に影響することも
——財産分与は均等に分けるかたちですでに終えているようです。この点は返済を求めるうえで、どのような影響があるのでしょうか。
財産分与がどのように処理されたかは、「贈与」なのか「貸しつけ」なのかということとは一応別問題です。しかし、その認定に影響を及ぼす可能性があります。
今回のケースでは、離婚時の財産分与で夫婦共有財産(不動産のほか、預貯金なども含まれているのでしょう)を2分の1ずつに分け、その結果、共有だった自宅は相談者の単独名義にされているようですが、財産分与の算定対象となった夫婦共有財産に「頭金に相当する部分」が含まれていたかどうかで変わってきます。
——具体的にはどう変わるのでしょうか。
頭金に相当する部分が相談者の特有財産として算定の対象外だったということになると、もはや、貸金として元夫に返還請求するのは困難でしょう。
なぜなら、このような処理においては、頭金に相当する部分は相談者のものであり、相談者が頭金を父親からもらったことがその前提となるからです。
——父親から「借りたお金」であるということと矛盾するということですね。
一方、頭金に相当する部分も夫婦共有財産として精算をしたということであれば、貸金の請求もありえます。
なお、上記のように証明の困難さだけでなく、お金のやりとりのあった時期によっては消滅時効が完成している可能性もあります。
今回のような問題は、借用証でもない限り、離婚時に財産分与と一緒に解決しておかないと回収が難しくなります。親族間でのお金のやりとりであっても、しっかりと書面を交わしておくなどの対応をしておくと良いと思います。