永遠の愛を誓いあったはずの二人が、別々の道を歩むことを決める「離婚」。浮気や借金、暴力など、離婚にいたる理由は夫婦によってさまざまだが、最近は「夫がアイドルにハマりすぎて離婚したい」というケースもあるのだという。
ネット上のQ&Aサイトには、そうした悩みが複数寄せられている。あるケースでは、夫がアイドルグループにハマってしまい、オタクの友達と遊んだり、家でDVDを観たりするようになった。妻は、その様子をどうしても気持ち悪いと感じてしまうのだという。
そこで、別れたほうがお互いになるためと思い、夫に離婚をしようと持ちかけたら、「趣味ごときで離婚はできない」と言われてしまったのだそうだ。
だが、10代や20代の女の子に夢中になっている夫を受け入れられない、という気持ちも分からなくもない。もし「離婚したい」と裁判に訴えた場合、その願いは認められるだろうか。東山俊弁護士に聞いた。
●「アイドルに夢中だ」という理由だけでは、離婚はむずかしい
「夫婦で離婚の合意ができれば、協議離婚ができますが、裁判で夫婦のどちらかが一方的に離婚を請求できるのは、法律でいくつかの場合に限られています(民法770条)」
東山弁護士はこのように述べたうえで、その中で当てはまる可能性があるのは、性格の不一致なども含まれる「婚姻を継続し難い重大な事由」(民法770条1項5号)しかないという。
当てはまる可能性はどれほどあるのだろうか?
「夫婦が相互に協力する義務を負っているといっても、合理的な範囲で個人的な趣味を楽しむことができるのは当然です。配偶者や親としてそれ以外に問題がなく、限られた時間や費用の中で楽しんでいるのであれば、離婚が認められることはないでしょう」
どうやら、夫がアイドルにはまっているからといって、裁判所がそれだけで離婚を認めることはなさそうだ。では、離婚が認められる場合は全くないのだろうか。
●「夫婦関係が崩壊したといえるかどうか」がポイント
「アイドルにはまっただけでは、離婚が認められることはないでしょう。しかし、アイドルにはまったことをきっかけに夫婦関係が悪化し、崩壊したという事情があれば、離婚が認められることはありえます」
ポイントは「夫婦関係が崩壊したといえるかどうか」ということだが、具体的にはどのような場合だろうか?
「たとえば、趣味に対する考え方の違いからケンカが絶えないような場合や、コンサートやグッズに多額の費用を支出している場合、趣味に打ち込むあまり家事の分担を完全に拒否しているような場合などがあげられます。
ただし、性格の不一致による離婚は、相当認められにくいのが現実です。こうした事情の程度が重大であることや、複数の事情があること、それらの事情から別居するようになっていることといった事情がなければ、夫婦関係が崩壊したとはいえないでしょう」
夫婦関係が崩壊したというためには、単に何度かケンカになったというような状況ではなく、それなりの事情が必要なようだ。
「なお、夫婦は互いを尊重する義務があり、その一環として、理由もなく相手を軽蔑してはならないという義務を負うと考えられます。
配偶者がアイドルにはまっているからといって、軽蔑した態度を取り続けると、逆に相手から離婚を請求されるかもしれません」
東山弁護士はこのように注意を呼びかけていた。