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加藤紗里さん「シングルマザー」宣言、意外と難しい「法律上の父親」問題
加藤紗里さんのインスタグラム(https://www.instagram.com/p/B7SAM3OFJRN/)から

加藤紗里さん「シングルマザー」宣言、意外と難しい「法律上の父親」問題

タレントの加藤紗里さんが、自身のインスタグラムとYouTubeチャンネルで妊娠を打ち明けて以後、ネットニュースをはじめ、メディアは加藤さんの話題で持ちきりとなった。

加藤さんは1月10日、2019年9月に結婚した不動産会社の男性と3カ月でスピード離婚していたことを発表したばかり。19日に投稿した動画「加藤紗里 ママになる!?」で、病院の前で不安そうに「やっぱり来てないんですよ、生理」「だれの子なん?」などとコメント。検査を終えて「妊娠してました」と報告した。

動画の撮影者に「だれの子なのか」と聞かれると「それは分からないです…」とし、しばらく考え込んだ後に「…元旦那の子ですよね」とボソリ。DNA鑑定の必要性については「大丈夫です」。6月か7月に出産予定だという。

妊娠発覚について「ヤバイ」などと連呼していた撮影者に非難が殺到したことを受け、加藤さんは同じ日に「ふだんは謝らないという姿勢をとってきたのですが、今回は謝りたいと思います」と謝罪動画を投稿。「心機一転、母としてシングルマザーとして頑張っていこうと思いますので、応援のほどよろしくお願いいたします」と語った。

加藤さんは元夫と結婚後わずか1週間後に別居し、離婚後に新しい恋人ができたことを明かしている。しかし、報道によると、再婚はせずに「シングルマザー」として育てていくつもりのようだ。このような場合、子どもの父親は法律上、誰になるのだろうか。

なお、法律上の親子関係が認められる場合、子どもには、(1)父親が死亡した場合における相続権が発生する、(2)父親に対する扶養請求権(養育費の請求権)が発生するという法的効果が生じる。

●法律上の父親は元夫と「推定」される

実は、加藤さんのケースでの「父親」問題は難しい。

一般的な出産でも、子どもの生物学上の母親がだれかは明らかな一方、父親については必ずしもそうとはいえない。そのため、法律上は「妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する」(民法772条1項)とされている。

そうはいっても、「妻が婚姻中に懐胎した」ことの証明も簡単ではない。そこで、婚姻成立の日から200日を経過した後、または婚姻を解消した(離婚などした)日から300日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定することとなっている(民法772条2項)。

加藤さんの出産予定月は6月または7月だ。元夫との具体的な離婚時期については明らかにされていないが、『週刊文春』(1月23日号)によると、2019年の暮れに離婚が成立したという。

仮に12月に離婚が成立していた場合でも、6月あるいは7月に子が誕生すれば「婚姻を解消した日から300日以内」にあたるため、生まれた子の法律上の父親は元夫であると推定されることになる。

●元夫以外の男性が「父親」だったら?

ところが、ここで1つの問題が立ちはだかる。元夫以外と性交渉があり、その男性が生物学上の「父親」であったらどうなるのか、という問題だ。

加藤さんは元夫と結婚後わずか1週間後に別居している。『スポニチ』(1月19日)によると、加藤さんの妊娠時期は「10月末から11月ごろ」であり、別居中となるようだ。また、当時は「夫の過剰な束縛により、夫婦関係は極めて悪化していた」と話したという。

そこで、夫婦関係が悪化した状況で、妊娠できたのだろうかと疑問視する声も上がっている。

嫡出推定は、あくまで「推定」であり、「事実」ではない。そのため、もし事実ではない場合、元夫は子の出生を知ってから1年以内に「嫡出否認」の訴えを起こすことができる(民法775条)。

加藤さんはYoutubeの動画内で子どもの父親について聞かれて考え込む一面もみられたが、『スポニチ』では「DNA鑑定を受ければ、間違いなく証明できる」とコメントしている。

なお、加藤さんのケースでは定かでないが、子が元夫の嫡出であることが否認される場合には、加藤さんが「生物学上の父親」に対して、強制認知を求めることも可能だ。

以上のように、法的に何らかのアクションがとられない限り、子の法律上の父親はスピード離婚した「元夫」ということになる。真相を知るのは加藤さんのみだが、ママタレとしての活躍と無事の安産と願いたい。

プロフィール

澤藤 亮介
澤藤 亮介(さわふじ りょうすけ)弁護士 向陽法律事務所
東京弁護士会所属。2003年弁護士登録。2010年に新宿(東京)キーウェスト法律事務所を設立後、離婚、男女問題、相続などを中心に取り扱い、2024年2月から現在の法律事務所でパートナー弁護士として勤務。自身がApple製品全般を好きなこともあり、ITをフル活用し業務の効率化を図っている。日経BP社『iPadで行こう!』などにも寄稿。

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