2020年01月14日 10時52分

「司法と行政の両面で市民を支える」弁護士職員が活躍する明石市で起きた変化

「司法と行政の両面で市民を支える」弁護士職員が活躍する明石市で起きた変化
明石市で初の弁護士職員となった市民相談室長の能登啓元さん

法律事務所の職員ではなく、地方公務員として働く弁護士が増えている。日本弁護士連合会の統計によると、2019年6月時点で、全国120自治体で184人が職員として働く。兵庫県明石市では現在、10人が在籍し、市民や市職員への法律相談や犯罪被害者等支援、離婚前後における子どもの養育支援、学校現場でのいじめ対応など、幅広い業務にあたる。自治体内に、一般職員と同じ立場で働く弁護士がいることは、様々なメリットがあるようだ。(ライター・南文枝)

●法務だけでなく、政策立案にもかかわる

兵庫県南部に位置し、大阪からは電車で約40分かかる明石市は人口約30万人。2012年度から弁護士資格を持つ職員の採用を始めた。11年に市長に就任し、自らも弁護士資格を持つ泉房穂市長が、市民相談への対応や、庁内のコンプライアンス(法令順守)制度などを強化しようと考えたのがきっかけだ。

2012年度は、5年の任期付職員として5人を採用。2017年度以降は専門性を継続的に発揮してもらうため正規職員で募集するようになった。任期付から正規職員として採用されるケースを含め、現在在籍する10人のうち7人が正規職員として働く。2020年度からは、さらに2人が加わる予定だ。内定者を除いても、これまでに採用した職員はのべ15人に上る。

書類選考と面接で採用し、実務経験年数や実績、資格などに応じて次長級ないし主任級の役職に格付けする。一例を挙げると、次長級の場合、月給約41万円(年収約860万円)だ。弁護士会の会費などは自己負担となる。

一般的に、自治体職員の弁護士は、総務・法務部門に配属されることが多いが、明石市の場合は、市民相談室や市長室、あかし保健所、生活支援室、あかしこどもセンター、教育委員会、総務管理室と配属先は多岐にわたる。市民や職員向けの法律相談や訴訟対応など一般の弁護士業務に近いものだけではなく、政策立案などにも取り組んでいるのが特徴だ。

明石市では、弁護士職員の採用を積極的に進めている 明石市では、弁護士職員の採用を積極的に進めている

●市民の自宅を訪れて、病気で寝ている枕元で相談を受けることも

市民相談室長(次長級)の能登啓元さんは、大阪の法律事務所勤務を経て2012年、任期付職員として入庁。2017年度からは正規職員として採用された。応募のきっかけは、法律事務所時代、市民向けの法律相談で生活保護や離婚、児童扶養手当など行政手続きが絡む相談を受け、「行政の内部に入ってこれらの手続きについて詳しく知ることができれば、より丁寧に相談に対応できるのではないか」と考えたことだった。

採用後は市民相談課(現市民相談室)に配属され、市役所本庁や支所で市民向けの法律相談にあたった。市民の自宅などを訪れて、病気で寝ている枕元で相談を受けることもあったという。現在は業務の幅が広がり、離婚前後における子どもの養育や無戸籍者、犯罪被害者等支援の制度設計などにも取り組む。離婚前後の子どもに対する法律的な支援や、家賃滞納などで市営住宅の明け渡しを求める際の対応など、法律事務所時代の知識や経験が生かせる場面も少なくない。

能登さんは、トラブルに発展する前から当事者の声を聴き、紛争の未然予防にかかわれることにやりがいを感じているという。「本格的にもめる前に相談に来られて解決する案件もありますし、当事者が必要としている施策づくりに一からかかわり、実現することもできます。今後は現在やっている政策をどんどん充実させていきたいですし、他にも弁護士としてできることはまだまだあると思っています」

●「裁判になる前」の支援にやりがい

市長室政策法務担当課長と市民相談室課長(いずれも課長級)を兼務する村山由希子さんは、千葉の法律事務所での勤務を経て2014年、任期付職員として入庁し、2019年度に正規職員に採用された。関東から関西に引っ越す際に、明石市で働く弁護士職員のことを知り、行政の制度設計に弁護士がかかわれることに興味を持ったという。

能登さんと打ち合わせをする市民相談室課長の村山由希子さん(左) 能登さんと打ち合わせをする市民相談室課長の村山由希子さん(左)

現在は、離婚前後における子どもの養育や無戸籍者、犯罪被害者等支援のほか、罪を犯した人の更生支援などにも取り組む。「高齢や障害などの事情がある場合、社会に戻ってきても生活が困難で、また罪を犯すという負の連鎖にはまってしまう人もいる。そういった方を、行政で本来受けるべき福祉サービスにつないで再犯を防止し、安心・安全なまちをつくっていきます」

村山さんも、弁護士職員のやりがいとして、紛争を未然に防げることを挙げる。「犯罪被害者でも、裁判になって弁護士がつくというのは最終的な段階で、その時にはその方たちは非常に苦しんでいる。こういった方たちをもっと未然に支援したり、紛争を解決できたりする制度づくりや運用にかかわっているということに、非常にやりがいを感じます」

明石市は、離婚前後の両親に養育費や面会交流の方法などを取り決める参考にする「こどもの養育に関する合意書」を配布するなど、全国に先駆けて取り組んでいる施策も多い。村山さんは、こうした施策にかかわれることにも魅力を感じているという。とはいえ2人とも、当初は法的根拠のない前例踏襲や議会対応などで、戸惑うこともあったそうだ。

●庁内の法律相談は、弁護士職員採用前の20倍に

弁護士職員の採用は、明石市にとって、大きなメリットがあったという。顧問弁護士への相談は上司の決裁がいるなど回答を得るまでに時間がかかったが、庁内の弁護士職員がいるとすぐに対応でき、行政の内部事情にも詳しいため、的確な答えを得やすい。職員から弁護士への法律相談件数は、2018年度は1152件と、弁護士職員採用前の約20倍に増えた。内容についても、関係する法律や条例について調べたうえでの具体的な相談が増えたという。

泉市長は「公務員弁護士は、一定の収入を確保したうえで、本来の弁護士の使命である人助けや世直し、養育費の不払いや面会交流など法律事務所では採算が取りにくいケースでも能力を発揮し、困っている市民に寄り添うことができる」と弁護士職員の意義を強調する。

「司法と行政、両方に精通している弁護士職員がいることによって、子どもの養育や児童虐待、成年後見など、司法と行政の谷間に落ち込んでいるテーマがやりやすくなりました。司法的機能と行政的機能はともに市民を助けられます。自治体としての弁護士職員の位置づけをしっかりして、司法と行政との連携を進めていくべきです」(泉市長)

泉市長は将来的に、弁護士職員を20人ほどに増やす考えだという。市民や市職員にとって、より身近な法律の専門家である弁護士職員の活躍の場は、今後も広がりそうだ。

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