スマートフォン向け恋愛ゲームのテレビCMが「不倫を推奨しているようで不快」と物議を醸している。
話題となっているのは『今夜アナタと眠りたい』という女性対象の恋愛ゲーム。主人公は31歳の既婚女性で、新婚で幸せの絶頂の中、夫の浮気を目撃。そんなとき、優しくしてくれる素敵なイケメンが現れて――というのがあらすじ。アップルのAppストアでは、12才以下の子供に不適切とみなされることがある「12+」指定となっている。
7月に放映スタートしたテレビCMは、イケメンキャラが「結婚したのか、俺以外のヤツと」「今夜は、帰したくない」などと女性キャラに語りかけるという内容で、かなりアダルトな雰囲気だ。ネット上でも話題になっているが、ツイッターでは「ゴールデンタイムに放送するなんて」「こういうCMはテレビではダメ」といった批判的なコメントが目に付く。
確かに、不倫がテーマの小説や映画は昔からあるし、それをゲームで楽しむというのもアリだろう。だが、少なからぬ視聴者が不倫を推奨していると受け止めるようなCMを、テレビで流すことに制限はないのだろうか。清水陽平弁護士に聞いた。
●「公序良俗に反する」といえるかどうか
「このような件についての法的な規制というと、公序良俗(民法90条)が問題となります」
清水弁護士はこのように指摘する。民法90条には、「公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効とする」と定められている。その意味するところは、どんなものだろうか。
「『公の秩序』というのは、国家社会の一般的利益を指し、『善良の風俗』というのは社会の一般的な道徳観念を指すとされますが、両者の区別は必ずしも明確ではないため、両者を合わせて『社会的妥当性』を意味するものと認識されています」
では、今回の恋愛ゲームのCMは「公序良俗」に反するといえるのだろうか。
「日本においては一夫一婦制が採られていますので、一夫一婦に反する関係を維持する契約は無効とされます。つまり、不倫というのは公序良俗に反するものと考えられます。そうすると、このCMを見ると不倫関係に至るような内容と思われ、公序良俗に反すると言えそうな気もします。
しかし、公序良俗に反するとされるのは、"現実"に一夫一婦に反する関係を維持するようなものであり、不倫関係をテーマにすることが公序良俗に反するということにはなりません。
また、このCMが『不倫を推奨している』とまで言えるかというと、これまで数多くの不倫関係をテーマにした小説や映画などが多数存在していることや、それについてのCMも同じように放送されていたことに照らして、そのようには言えないのではないかと思います」
どうやら、この恋愛ゲームのCMを「公序良俗違反」とまでいうのは難しいようだ。では、CMを見て不快に思った人は、ただ我慢するしかないのだろうか。
「公序良俗に反していないからといって、放送についてどのように感じるのかということは、当然ながら別の問題です。問題があると感じた場合にとることができる手段としては、NHKと民放連で設置している放送倫理・番組向上機構(BPO)に意見を述べることが考えられます」
テレビの恋愛ドラマの多くは「不倫」がどこかでからんでくるものだ。それと比較すると、恋愛ゲームのCMだけ問題視するのは、不公平といえるのだろう。ただ、どうしても見ていて不快という人は、BPOに意見をぶつけてみるというのもアリかもしれない。