「妻とは離婚する。だから安心してほしい」。不倫のカップルが登場するドラマでよく耳にする、こんなセリフ。もし自分が言われたら・・・。愛している人の言うことだからと、信じられるだろうか。
だが、こんな話は往々にして、その通りにはならないものだ。いつまでたっても相手が離婚しないと思ったら、突然、「不倫が妻にバレたから別れてくれ」なんて泣きつかれた、という話はよく聞く。
妻子ある男性の言葉を信じて、不倫の状態を受け入れていた女性からすれば、「男性にいいようにだまされた」とも言えそうだ。こうしたケースで、女性が男性に「慰謝料」を求めることはできるのだろうか。柳原桑子弁護士に聞いた。
●不倫関係は、法的に保護されていない
「男性に配偶者がいると知ったうえで、情交関係を持つにいたった場合、それは法的に保護された関係ではありません。ですから、交際相手の男性に慰謝料を請求できないのが原則です」
だまされた女性にとっては厳しい回答だ。しかし、柳原弁護士はこうも続ける。
「ただ、諸般の事情をみたとき、男性の違法性が女性より著しく大きい場合があります。こうした場合は、慰謝料を認めるべきとした最高裁判例(昭和44年9月26日判決)があります」
その判例は、どんなケースだったのだろうか。
「このケースは、女性がそれまで異性に接した体験がなく、しかも19歳という若さで思慮不十分であることに、男性がつけこんだ事例です。
男性は、離婚意思がないにもかかわらず、『離婚するから結婚しよう』と誘いました。女性は、その男性がいずれ結婚してくれるものと信じて、情交関係を持つようになりました。
1年あまりたったとき、女性が妊娠。とたんに男性は、女性を避け、分娩費用は支払ったものの、交際を絶ちました。この男性は、ほかにも不貞行為を繰り返していたようです」
なんて悪いオトコなんだろう。たしかに、これなら一方的に男性のほうが悪いと、誰もが思うだろう。
「そうですね。裁判所は、これらの事情から、男性は単なる性的享楽の目的を遂げるためだったと判断しました。
そして、女性が、若くて経験・思慮が不十分なことにつけこみ、離婚するとだました結果、女性が真に受けているのを利用して情交関係を継続したもので、主として男性に責任があり、男性の違法性のほうが著しく大きいと評価しました。
このように、男性のほうが明らかに悪いと評価される場合は、慰謝料が認められることもあります」
柳原弁護士はこう述べる。だが、最初に説明があったように、不倫の場合はたとえ相手に裏切られても慰謝料を請求できないのが原則だ。やはり、不倫はしないほうがよい、というのが常識的な判断と言えるだろう。