2019年02月09日 09時57分

朝日新聞、ギリヤーク尼ヶ崎さん記事で「事実上の盗用」…著作権問題を徹底検証

朝日新聞、ギリヤーク尼ヶ崎さん記事で「事実上の盗用」…著作権問題を徹底検証
『ギリヤーク尼ヶ崎「鬼の踊り」から「祈りの踊り」へ』(北海道新聞社)

朝日新聞の北海道版に掲載された記事で、北海道新聞社から出版された写真集から「事実上の盗用」をした箇所が多数みつかったとして、朝日新聞社は1月31日、連載を中止したうえで、記事を取り消すと発表した。お詫び文では「事実上の盗用」と表現されているが、法的にはどうだったのだろうか。

●写真集の記述と重なる表現がみつかった

問題になったのは、朝日新聞の北海道版で2019年1月12日と19日に掲載された記事「ひと模様 大道芸人 ギリヤーク尼ヶ崎さん」だ。北海道函館市出身で、大道芸人歴50年のギリヤーク尼ヶ崎さんの人生を振り返るという内容だった。

北海道新聞社から指摘を受けて、朝日新聞社が社内調査をおこなったところ、2016年に出版された写真集『ギリヤーク尼ヶ崎「鬼の踊り」から「祈りの踊り」へ』の記述と重なる表現が、連載1回目で約4割、2回目で約8割もみつかった。

記事を担当したのは、函館支局の記者で、ギリヤークさんに複数回会ったが、取材が十分でなかったことから、写真集の文章をもとにした「下書き」を用意。そのうえで、取材の中で、下書き部分をギリヤークさんに確認してもらって、上書きするかたちでまとめたという。

この記者は、写真集の著者欄に「ギリヤーク尼ヶ崎」と書かれていたことから、「ギリヤークさんの承諾を得て記述を使うことは問題ないと思った」と社内調査にこたえたという。一方、写真集の巻末に「2003年の北海道新聞夕刊の連載の記述をほぼ再掲載した」という記述がされていたことは見逃していた。

朝日新聞の連載記事と北海道新聞社出版写真集の文章の対照表(朝日新聞社) http://www.asahi.com/shimbun/release/2019/20190131b.pdf

●「著作権侵害になる可能性が高い」

朝日新聞社は「そもそも、他者が書いた文章を自分の文章表現として引き写すことは新聞記者として許されるものではありません。デスクや校閲などのチェック体制も十分機能していませんでした」とおわびしている。

同社ゼネラルマネジャー兼東京本社編集局長の中村史郎氏は「刊行物からの引き写しは記者倫理に反する行為であり、絶対に許されることではありません」とコメント。朝日新聞社は2月7日、担当記者を停職2カ月とするなど、関係者の処分を発表した。

このように、「事実上の盗用」と認定しているわけだが、法的にはどうなのか。著作権にくわしい雪丸真吾弁護士が解説する。

「対照表記載によると、朝日新聞記事の大部分は、写真集の文章の複製または翻案と評価されます。また、写真集に『文 ギリヤーク尼ヶ崎 島倉朝雄(北海道新聞社)』との記載があるので、少なくとも島倉さん(あるいは北海道新聞社)も、著作者の1人と推定されます(著作権法14条)。

したがって、仮にギリヤークさんの同意があったとしても、島倉さん(あるいは北海道新聞社)の複製・翻案に対する同意がなければ、著作権侵害(複製・翻案権侵害)となる可能性が高く、この点の権利処理を怠った点が問題と判断されます」(雪丸弁護士)

仮に、すべてギリヤーク尼ヶ崎さんによる文章だった場合はどうだろうか。

「著作者・著作権者が、ギリヤークさんだけの場合は、『写真集の文章をもとにした『下書き』を用意。取材の中で、下書き部分をギリヤークさんに確認した』という事実関係があるので、複製・翻案について著作権者の同意があり著作権侵害ではない、といえる余地が出てきます」(雪丸弁護士)

なお、北海道新聞社は、弁護士ドットコムニュースの取材に対して「当社の出版センターとしてはギリヤーク尼ヶ崎さんと当社に著作権があると考えています」と回答した。

●「語尾や言い回しを変えたくらいではダメ」

今回のケースは、一部の記者たちの間でも話題になっている。というのも、同じ対象を取材して、同じような事実を引き出すことはザラにあるからだ。そして、取材に参考に読んだ資料にも影響を受ける可能性があるからだ。

「同じような事実であったとしても、文章表現は異なるのが通常だと思います。そして、『取材の参考に読んだ資料に影響を受ける』ということは、自身で表現を創作したのではなく、参考資料を複製・翻案した著作権侵害と評価されることになろうと思います」(雪丸弁護士)

はたして、「引き写し」の境界線はあるのだろうか。

「複製・翻案権侵害になるほど類似しているかどうか、という判断ということになると、ケース・バイ・ケースですので、なかなか一概に言えませんが、参考にした文章の語尾や、言い回しを変えたくらいでは駄目でしょう。文章表現を構成している単語とその順序をできるだけ相違させれば、より侵害の可能性が低くなっていきます」(雪丸弁護士)

雪丸弁護士によると、実際に裁判で争われた例として、「チーズはどこへ消えた? バターはどこへ溶けた?」事件(平成13年12月19日・東京地裁)があり、以下のように翻案権侵害を認めている。

「チーズはどこへ消えた? バターはどこへ溶けた?」事件 http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/130/012130_hanrei.pdf

「チーズはどこへ消えた? バターはどこへ溶けた?」事件

(弁護士ドットコムニュース)

雪丸 真吾弁護士
著作権法学会員。日本ユニ著作権センター著作権相談員。慶応義塾大学芸術著作権演習I講師。2016年10月、実務でぶつかる著作権の問題に関する書籍『Q&A 引用・転載の実務と著作権法』第4版(中央経済社)を、2018年8月、『コンテンツ別 ウェブサイトの著作権Q&A』(中央経済社)を出版した。
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