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「ラブライブ!」魔改造フィギュア販売で逮捕…どんな権利侵害があったのか?
齋藤理央弁護士より提供。

「ラブライブ!」魔改造フィギュア販売で逮捕…どんな権利侵害があったのか?

人気アニメ「ラブライブ!」に登場するキャラクターのフィギュアを無断で改造して販売したとして、茨城県警稲敷署は1月、千葉県八千代市内の男性を著作権法違反の容疑で逮捕した。

県警や報道によると、男性は昨年9月、「ラブライブ!」のキャラクター「矢澤にこ」の頭部を切断。より薄着である別のフィギュアの胴体部分に取り付け、ネットオークションで販売したという。このほか、押収されたフィギュアや部品は1000点におよび、警察は他にも著作権侵害がないか、捜査している。

独自にフィギュアを改造することは「魔改造」と呼ばれる。ファンの間では以前から行われており、ネットオークションなどで売買されているほか、買い取りをする業者も存在する。

今回、どのような権利侵害があったのか。販売はせずに、フィギュアを個人の楽しみとして改造していれば問題ないのだろうか。齋藤理央弁護士に聞いた。

●少なくとも、2点の同一性保持権を侵害する行為

今回、どのような権利を侵害したと考えられるのか。

「容疑が事実であれば、正確には著作権法113条1項2号に反する行為として119条2項1号により処罰されることになります。著作権法113条1項2号は、著作者人格権等を侵害する行為によって作成された物を、そうであると知った上で頒布等する行為を禁じています。

つまり、著作者人格権を侵害する行為そのものではなく、著作者人格権を侵害する行為から出来上がった物を販売などする行為も、そうであると知っていた場合、処罰対象となります。

著作者人格権とは、著作者の人格的利益を保護しようとする権利で、著作物の表現形式等を意に反して改変されない権利である同一性保持権などを内容とします。この著作権人格権の一つである同一性保持権を侵害する行為が、今回のケースには、少なくとも2点把握できます。

1点目が、フィギュアの頭部を分離した行為です。著作権法は、『切除』を改変の代表例として挙げており、首と胴体を切断する行為は同一性保持権侵害行為となり得ます。

2点目が、フィギュアの首を別のフィギュアの胴体と接合する行為です。元のフィギュアとは異なる胴体と接合されたことにより外面的な表現形式は変更されたと言えますので改変行為に当たり得ます。

この接合行為については、新たな表現行為と評価できる場合はさらに翻案権(著作権法27条)侵害行為ともなり得ます。しかし、翻案権侵害についてはより重い罪となる(著作権法119条1項)ものの、新たな表現行為と評価できるか曖昧なので、立件されないでしょう。

この頭部を分離する第1行為から作成されたのは、胴体から切断されたフィギュアの首から上の部位です。

第2の改変行為から作成された物は、元のフィギュアの頭部と別のフィギュアの胴体を接合した改造フィギュアそのものです。

つまり、首の切除によって作成された首から上の部位を販売したとも、接合によって作成された改造フィギュアを販売したとも評価できます。いずれにせよ、首を切断した行為でも、別のフィギュアの胴体と接合した行為でもなく、その結果出来上がった胴体から離れた頭部のパーツ、あるいは改造フィギュアそのものを販売(しようと)した行為が逮捕容疑となっています。これは改造したのが被疑者本人か別の者なのか証拠上まだ確定できないからだと推測されます。

●個人で改造を楽しんでも同一性保持権侵害に該当する可能性

フィギュアを改造する行為は、以前からファンの間で行われている。個人で楽しんだ場合でも、法的な問題はあるのだろうか。

「同じく同一性保持権侵害に該当する可能性があります。確かに私的使用の範囲で複製を適法とする条項は存在しますが、同一性保持権侵害については、その他の権利制限規定も含めて適用されません(著作権法50条)。

自分で購入した商品を改造して違法といわれるのは違和感があるかもしれません。しかし、例えば絵画などの芸術作品について、たとえ自分で買ったとしても、好きに描き替えることが穏当ではないことは理解しやすいのではないでしょうか。

確かに、改造しても改造したフィギュアを販売したり、ネットにアップするなどしなければ誰も問題にしない可能性が高いです。しかし、改造が許されている例外的なケースでない限り、違法となる可能性がありますので、どうしても趣味で改造をしたい場合は、権利者(著作者)に連絡して許可をとってからにした方がよいでしょう。許可はできれば書面、少なくともメールでもらっておくとより安心です」

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

齋藤 理央
齋藤 理央(さいとう りお)弁護士 今井関口法律事務所
今井関口法律事務所。著作権などコンテンツiP(知的財産)やITトラブルなど情報法分野に重点をおいている。重点分野で最高裁判決、知財高裁判決などの担当案件の他、講演、書籍や論文執筆監修など多数。自身のウェブサイトでも活発に情報発信をしている。東京弁護士会所属。著作権法学会、日本知財学会会員、弁護士知財ネット、東弁IT法研究部等に所属。

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