世界的に知られている正体不明のアーティスト、バンクシーが描いた可能性がある落書きがこのほど、東京都港区の片隅でみつかった。東京都所有の防潮扉に描かれていたことから、都は1月16日、その扉を取り外して倉庫に保管した。今後、本物かどうか見極めるため、専門家に相談するという。仮に、本物だったとして、バンクシー本人は罪に問われるのだろうか。
●「10年以上前から防潮扉に描かれていた」
「あのバンクシーの作品かもしれないカワイイねずみの絵が都内にありました! 東京への贈り物かも? カバンを持っているようです」
ゆりかもめ「日の出駅」前で見つかった「傘をさしたネズミ」の落書きの前で、小池百合子知事が写真を撮影し、ツイッターに投稿した。バンクシーは、世界各地の路上や壁に社会風刺をきかせた落書きを残しており、オークションで「1億円」で落札された作品もあるほど人気だ。小池知事のはしゃぎようも無理もない。
仮に、今回の落書きが本物であれば、日本初と言われている。都・文化振興部企画調整課によると、この落書きは、10年以上前から防潮扉に描かれていたとみられる。同課がこの落書きの存在を認識したのは、2018年末に都民から情報提供を受けてからで、そのあとバンクシーと結びついたという。
●器物損壊は「親告罪」だ
しかし、ネット上では、小池氏の投稿を含めて、都の対応を冷ややかに見ているむきもある。その一つは、落書きは「犯罪だ」というものだ。西口竜司弁護士が解説する。
「芸術を理解しない私からすれば、何と言っていいのかよくわかりませんが、身も蓋もないことを言うと、落書きは『物の効用を害する』ことになるので、器物損壊罪にあたります。3年以下の懲役または30万円以下の罰金もしくは科料が科せられることになります」(西口弁護士)
ということは、バンクシーも器物損壊に問われるのだろうか。
「仮に、バンクシーによるものだとしても、器物を損壊していますので、罪に問われるでしょう。有名だからといって、やっていいことと悪いことがあります。ただし、器物損壊罪は親告罪です。被害者、つまり東京都が告訴しないと起訴できません」(西口弁護士)
●「それほど悪質な落書きではなかった」
文化振興部企画調整課によると、これまでのところ、今回の落書きについては、被害届を出していないという。同課長は、弁護士ドットコムニュースの取材に対して、「もちろん、落書きは犯罪だ。しかし通常、落書きがあったからと言って、すべて被害届を出すわけではない」とコメントした。
また、10年以上も消すなどの対応がとられていなかったことについては、「美観を著しく損ねたり、防潮扉が閉まらなくなるような落書きがあれば、すぐ対応するのだと思うが、扉の片隅に描かれたもので、それほど悪質なものではなく、優先順位が低かったのだと思われる」(同課長)としている。
こうした作品には、所有権と著作権があり、所有権は東京都、著作権はバンクシーのものとなるのが、一般的な考え方だ。ただ、バンクシーの落書きは『その場所にある』ということにも価値があるとされる。今回、もしバンクシーによるものだった場合、東京都が今後、美術館に入れるようなことがあれば、本来の価値を喪失させることにもつながりかねないだろう。