実在しない人物を使い、あたかも仮想通貨で簡単に稼げるような虚偽表示をしたとして、消費者庁はこのほど消費者安全法に基づく注意を呼びかけた。発表は8月28日付。
商業登記によると、業者は「リード」と称する企業(東京都新宿区、熊本悠介代表)。全国の消費生活センターへの相談が相次いだため、消費者庁はリードの代表者に事情聴取をし、次の事実が判明したという。
(1)「藤田真一」というカリスマ的な指導者を演じていた人物は実在しないこと(2)「藤田真一」が15億円をかけてビットコインを生み出すオートビットチャージ(ビットコインのマイニングサービスのアプリ)を開発したというのはウソであること(3)ウェブサイト記載の「今では300名以上のメンバー全員が毎月30万円以上のビットコインを受け取っているんです」はウソであること
共同通信などの報道によれば、リード社は虚偽宣伝を通じ、専用アプリなどを販売して2017年11月以降に7億円を売り上げた。また、リード社の代表者は廃業する旨を消費者庁に伝えているという。消費者庁は「今後、別の事業者が同様の手口で消費者被害を引き起こす蓋然性が高い。まずは疑い、甘い言葉に決してだまされないで」と呼びかけている。
今回のケースで、廃業することによりリード社および代表者らの責任が免れるものとは到底思えないが、どのような刑事罰にあたると考えられるか。また被害者はどのような請求ができるのか。仮想通貨に詳しい勝部泰之弁護士に聞いた。
●典型的な詐欺事例
ーー本件でリード社側が負う刑事責任について教えてください
「本件は典型的な詐欺事例ですが、特徴的なのは、投資ではなくアプリケーション等の販売であること、もう一つはマイニングによる収益を謳っているということです。
まず、刑事責任については詐欺罪の成立が考えられます。本件では代金支払いに対してアプリケーションを提供していますが、たとえ相当価格の商品を提供したとしても、『事実を告知するときは相手方が金員を交付しないような場合』には詐欺罪が成立するというのが最高裁の立場ですから(最決昭和34・9・28)、一連の虚偽広告により代金の支払いをしたことが立証されれば詐欺罪の責任は免れないでしょう」
ーー被害者は支払った代金を取り戻すことはできるでしょうか
「被害者は詐欺取消、錯誤無効に基づき、代金の返還請求をすることが可能ですが、いったん振込で支払った金銭の回収は、たとえ詐欺であることが明らかであったとしても困難です。被害者自身が警察や銀行に連絡をして振込先口座の凍結等をするのは困難でしょうし、弁護士に依頼するとしても費用倒れに終わってしまうと思います。
クレジットカードの場合は直ちに『支払い停止抗弁』をカード会社に申し立てることにより決済を止めることもできますが、決済から何カ月も経過した後であれば振込と同様に回収は難しくなります」
ーー仮想通貨に関するトラブルや事件が近年続いていて心配です
「仮想通貨については昨年から詐欺的なICO(新規仮想通貨公開)など、あの手この手の様々な詐欺事例が生まれており、仮想通貨と名が付くだけで考えなくお金を出してしまう様子は、さながらITバブル期の再来といったところでしょうか。
いずれの場合も、正しい知識に基づいて判断をし、自分が理解できないものにはお金を出さないことが重要です。本件も、マイニングの仕組みを理解していれば、数十万円程度の投資で高額の収益は得られないことは容易に理解できるはずです」