同僚女性のロッカーに、体液を塗りつけたタオルを置いたとして、栃木県の男性が5月下旬、県迷惑防止条例違反(嫌がらせ行為)の疑いで、県警に逮捕された。
産経ニュースによると、男性は2017年12月半ば〜2018年1月下旬の間に計3回、勤務先の同僚女性が使っている個人ロッカーの中に、自分の体液を塗りつけたハンドタオルを置いた疑いが持たれている。警察の取り調べに対して、男性は容疑を認めているという。
一般に「体液」といっても、鼻水や汗、血液などのさまざまな意味があるが、報道用語で使われる場合は「精液」を指すことが多い。今回のようなケースで、タオルに塗りつけたものが、たとえば汗や鼻水だったらどうだろうか。
どんな場合に違法になるのか、奥村徹弁護士に聞いた。
●「ストーカー規制法」の解釈が参考になる
「今回のケースは、栃木県迷惑防止条例の『嫌がらせ行為』が疑われたものだと思います。条文は以下のようになっています。
『汚物、動物の死体その他の著しく不快又は嫌悪の情を催させるような物を送付し、又はその知り得る状態に置くこと』(同条例7条1項5号)
そして同号は、特定の者に対する恋愛感情その他の好意の感情、またはそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的(ストーカー規制法2条1項)以外でなされる汚物等の送付行為について、ストーカー規制法2条1項6号(文言は上記と同じ)に準じて禁止する趣旨だと思われます。
要するに、ストーカー規制法の解釈が参考になります」
●「著しく不快または嫌悪の情を催させるような物」だと条例違反になりうる
では、汗や鼻水でも、違法になるのだろうか。
「『汚物、動物の死体』というのは例示ですから、精液に限らず、『著しく不快または嫌悪の情を催させるような物』を送付したり、知り得る状態に置くと、条例違反となりえます。
ストーカー規制法の場合は『ひどく快くないと感じさせ、又は不愉快に感じさせるような物であるが、社会通念上、客観的にそのように評価できる物であることが必要となろう』と解説されています。(檜垣重臣「ストーカー規制法解説〔改訂版P19〕
ちなみに、同条例は『特定の者に対する嫌悪、嫉妬その他これらに類する感情を充足する目的』と『反復性』を要件としていますので、汗や鼻水など体液が付着していても、たまたま置き忘れたタオルでは該当しにくいと思います」
●1回だけだったら「条例違反」にならなかった
今回のケースでは、同様の行為を3回もおこなっていたとされる。その回数は考慮されるのだろうか。
「法文上、『反復して行ってはならない』とされていますので、1回だけでは条例違反にはなりません。
たとえば、特定のつきまとい等が、毎日のようにおこなわれている場合であれば、当然反復しておこなわれていることとなります。
つきまとい等がおこなわれたあと、数カ月後にまた同じつきまとい等がおこなわれたような場合には、反復しておこなわれたとまでは言えません。
ただ、それでも毎月1回、つきまとい等を数年間繰り返したような場合には、反復しておこなわれていると評価できる場合もあると考えられます(前記解説P22)」
ロッカーという場所だったことも問題なのか?
「条例には、場所の要件はありません。ただ、『特定の者に対する嫌悪、嫉妬その他これらに類する感情を充足する目的』が要件となっているので、個人のロッカー内に置いた場合には、特定人への感情という要件が明らかになると思います」