根拠のない不当な懲戒請求を大量に受けたことについて、東京都内の弁護士2人が5月16日、東京・霞が関の司法記者クラブで会見を開いて、6月下旬から順次、960人の懲戒請求者を相手取り、慰謝料を求める訴訟を起こすと公表した。すでに和解が成立したケースが複数件あり、6月20日ごろまで和解を呼びかける。メールによる謝罪も受け入れているとしている。
弁護士の懲戒請求をめぐっては、あるブログが発端になって、全国レベルで大量におこなわれていることが問題になっている。このブログは、朝鮮学校への補助金交付などを求める各弁護士会の声明に反発したもの。2人の弁護士は、このブログ主の刑事責任(業務妨害罪など)を追及する方針だ。
●封筒の中には「外患誘致」と書かれた紙が入ってた
会見を開いたのは、東京弁護士会に所属する佐々木亮弁護士と北周士弁護士。佐々木弁護士によると、2017年6月、東京弁護士会所属の10人の弁護士に対して、190人から懲戒請求があった。10人のうち佐々木弁護士だけ、弁護士会の役職についておらず、「身に覚えがなかった」という。
懲戒理由は「違法である朝鮮学校補助金支給要求声明に賛同し、その活動を推進する行為は、日弁連のみならず当会でも積極的に行われている二重、三重の確信的犯罪行為である」(原文ママ)というものだ。
その後もまったく同じ内容の懲戒請求はつづき、1000件を上回った。さらに、懲戒請求者の1人と思われる人物から、佐々木弁護士に手紙が届いた。封筒の裏には「懲戒請求者は90億人いる」という記載があった。中には「外患誘致」と書かれた紙が入ってたという。
北弁護士は昨年9月、ツイッター上で、佐々木弁護士を支援するツイートをしたところ、今年3月、2人に対して960件の懲戒請求があった。「左右の言説の対立ではない。無差別におこなわれることは、非常に不当なことだ」(北弁護士)。「こういうかたちの懲戒請求はおかしい」(佐々木弁護士)。
●懲戒請求者の年齢層は「高め」という印象
電話で謝罪してきた請求者と話したという北弁護士によると、その属性は、比較的、年齢層が高いという。「若い世代がノリでやっているのではなく、年齢的にはかなり上だという実感がある。新聞報道で状況を知ったという人もいた。ツイッター(の報告)では届かず、どういう状況なのか、把握していない人もいる」(北弁護士)。和解者の中には女性も一定数含まれているという。
2人は提訴前に、請求者に対して、「自分がどういう状況なのか」ということについて、一度は告知する機会をつくるという。早ければ、5月中にも一斉通知したいとしている。
また、請求者たちは懲戒請求の理由について、「これで日本が良くなると思った」などと話しているという。「朝鮮学校の無償化に賛成する『反日』を懲戒請求すれば、日本が良くなると思っていたようだ」(北弁護士)「『時代を変えられると思った』という高揚感を感じたり、ブログに真実があると信じてしまったりした人たちだ」(佐々木弁護士)
懲戒請求の制度について、佐々木弁護士は「弁護士は高い倫理性を求められる。制度自体は否定しない。(今回の懲戒請求は)依頼者でもなく、会ったこともなく、私がどんな活動しているかも知らない。懲戒制度がどういうものか知ったうえで、利用してほしい」と述べた。北弁護士は「自分の頭で考えて、根拠があるか調べてやってほしい。ほかの弁護士に相談してからでもいい」と話した。