教職員の労働環境が過酷であることを問題視する指摘は近年、学校の内外で増えてきた。部活や遠征で休日がつぶれ、平日も部活後に夜遅くまでデスクワークをしないと日々の業務が回らないという実態が教職員を疲弊させる。教職員にも当然、自らの生活があり、「生徒のため」といって割り切るのにも限界がある。
●「顧問の押し付け、事実上のパワハラ」
「部活の顧問を押し付けるのは、事実上のパワハラです」。九州地方の公立中学校で教壇に立つ30代教師はこう話す。この4月からの新年度、部活の顧問になることを断った。「ボランティア」であるはずの顧問が、事実上、当たり前のように各教職員に割り振られ、「全員顧問制」の義務となっている状態に違和感を抱いていた。
職員会議の場で、「部活の顧問になることはお断りします」と宣言した。校長以下、教職員たちは水を打ったように静まり返ったという。後になって、「そういう時代だよね」と理解を示してくる教職員が複数いたことが救いだ。
「残業代は出ない。プライベートは削られる。教師に求められる役割が多すぎる」と、この中学教諭は話す。LINEなどをきっかけとした生徒間のトラブルの解決を任されるだけでなく、公園で生徒が騒がしければ学校にクレームがきて対応を求められる。「スマホを与えたのは親で、公園の騒ぎは学校外の話。何でも学校に持ち込まれてはたまらない」。
公立中学校などの教職員にとって、部活は時間外労働として認められていない。教育職員給与特別法(給特法)の規定で時間外勤務手当は払われず、代わりに「教職調整額」として基本給の4%が支給される。単純化して言えば、どれだけ部活指導で平日夜が削られても、基本給が月20万円程度なら8千円ほどしかもらえない。「いくらなんでも割りに合わない」(上記の中学教諭)という状態が続いている。
●ほとんどの学校で顧問就任は「当たり前」
多忙さはデータにもあらわれている。文科省の実態調査(2016年度)によると、小学校教諭の勤務時間は平日が1日あたり11時間15分(2006年度比43分増)で、中学校教諭は11時間32分(同32分増)。土日の勤務時間は小学校教諭が1時間7分(同49分増)で、中学校教諭は3時間22分(同1時間49分増)。ここには自宅に持ち帰っての残業は含まれていない。
調査を業務別にみると、特に中学校教諭の土日の「部活動・クラブ活動」が2時間10分(同1時間4分増)と、ほぼ倍増していることが目立った。
部活の顧問を外れることができれば多少は過酷度が和らぐといえそうだが、現実は、顧問を断るハードルは高い。スポーツ庁による2017年度の調査では「希望する教員が顧問にあたることを原則」とする中学校は2.2%、高校は1.4%と、ごくわずかにとどまった。「すべての教職員が何かしら顧問につくのは当たり前」との運用がされている実態がうかがえる。
●堺市教委「教職員の定時退勤日を設けます」
少しでも状況を改善しようと、教育委員会レベルで動くところもいくつか出てきている。そのうちのひとつ、大阪府堺市の教育委員会は3月、教職員が勤務時間を超えて学校に滞在している時間が年間約490時間にのぼるとして、「教職員が元気に子どもと向き合うためにご協力をお願いします」と題する文書を、各学校を通じて保護者に配った。
具体的には、毎週水曜は午後5時に終業した後に教職員がすみやかに帰れる「定時退勤日」とする。8月13日から17日までを学校閉庁日とし、部活動をしない「ノークラブデー」を平日は週1日以上、休日は月2日以上設けるという内容だ。
Twitterなどでは、おおむね好意的な反応が寄せられている。堺市教委の担当者は「先生たちが元気なら子どもたちにもいい影響が与えられると思う」。一方、業務量を減らさないと「絵に描いた餅」で終わるとの指摘も現場の教職員からは出ており、「実効性を高めるため、業務量を適切に減らしていけるよう検討する」(担当者)という。
教職員に蔓延する長時間労働を改善することができるかーー。上記の中学教諭は打開策について、「仕事の総量を減らすか、人員を増やすかだ」と話す。
(取材:弁護士ドットコムニュース記者 下山祐治)早稲田大卒。国家公務員1種試験合格(法律職)。2007年、農林水産省入省。2010年に朝日新聞社に移り、記者として経済部や富山総局、高松総局で勤務。2017年12月、弁護士ドットコム株式会社に入社。twitter : @Yuji_Shimoyama
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