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「樹氷」落書き、外国人逮捕はなぜ? 広告物を規制する「自然公園法」では限界も
蛍光スプレーで落書きされた樹氷(八甲田ロープウェー提供)

「樹氷」落書き、外国人逮捕はなぜ? 広告物を規制する「自然公園法」では限界も

青森市の十和田八幡平国立公園に指定されている八甲田山系で1月、樹氷や雪面に落書きされるという事件があった。「八甲田ロープウェー」の山頂公園駅付近で、樹氷数本とその周囲の雪面に蛍光スプレーで文字が吹き付けられていたもので、都内のミャンマー国籍の男が2月22日、ロープウェー会社の業務を妨げたとして威力業務妨害容疑で逮捕されたと報じられた。

落書きの現場は、国立公園の中でも最も規制が厳しい「特別保護地区」に準ずる「特別地域第1種」。通常、国立公園は自然公園法によって厳しく管理されており、現場付近は植物の採取や損傷、広告物の設置の禁止など多くの規制がある。そのうち、今回のケースは落書きを「広告物」とみなし、自然公園法違反とする可能性が高かったが、もしも意味のない模様のような落書きだった場合、同法での規制には限界もあるという。(弁護士ドットコムニュース編集部・猪谷千香)

●落書きがもし意味のないものだったら「広告物の禁止」に違反しない?

落書きが発見されたのは1月14日。ロープウェーを運営する八甲田ロープウェー株式会社(青森市)によると、落書きしている外国人がいるとスキーヤーから通報があり、社員が現場に駆けつけると、山頂公園駅を出てすぐの樹氷を中心に、蛍光ピンクのスプレーで広範囲にわたって落書きがされていた。スキーヤーは外国人に注意したが、落書きを止めなかった。落書きは社員がすぐに雪や氷を削るなどして消したという。同社の広報担当者は、「初めてのことで対応に困りました。環境省に相談して、警察に被害届を出しました」と振り返る。

樹氷への落書きは前例がない上、樹氷へのいたずらは、自然公園法で明確に禁じられている植物の損傷にもあたらない。しかし、決め手になったのは、落書きで書かれていた内容だった。落書きは英語や中国語で「誕生日おめでとう」などとあった。十和田八幡平国立公園管理事務所の森川久所長は、「今回の落書きは、たとえ溶ける雪や氷への落書きだったとしても、メッセージ性がありましたので、自然公園法が禁止する広告物の表示に該当する可能性が高いです」と話す。

国立公園の特別地域では、自然公園法第20条第3項にあるように、「広告物その他これに類する物を掲出し、若しくは設置し、又は広告その他これに類するものを工作物等に表示すること」を禁じている。しかし、森川所長は「落書きがもしも、意味の伝わらない模様などだった時、広告物と判断できるかは難しい。今回は文字でメッセージを相手に知らせていたため、広告物とわかるが、誰が見ても『なんだろう?』と思うようなものだった場合、広告物と言えるのかどうか…」とその難しさを指摘する。

今回、自然公園法違反ではなく、警察はより罰則の重い業務威力妨害容疑でミャンマー国籍の男を逮捕した。その理由として、共同通信では捜査関係者の話として、「木を直接傷つけておらず、雪は気温が上がれば解けて消える」との判断があったことを伝えている。

●落書きに悩む鳥取砂丘では、独自の条例で自然公園法を強化

これまで、全国各地の国立公園は観光客らの落書きに苦慮してきた。その一つである鳥取砂丘(鳥取市)は、山陰海岸国立公園の「特別保護地区」として管理され、国の天然記念物にも指定されている。鳥取県の調査によると、鳥取砂丘付近には2015年の1年間に301万人が訪れたという人気観光スポットであり、以前から砂を掘って落書きする観光客に悩まされてきた。

落書きは年間数百件に及び、中には数十メートルになる悪質なものも少なくない。2007年8月には、北海道テレビの番組「水曜どうでしょう」が砂丘に番組名を大書きしていたとして環境省から厳重注意を受けた。9月にも東海地方の大学生が斜面に大学のサークル名を描き、やはり厳重注意を受けている。いずれも、自然公園法が禁止する「広告物の表示」とみなされた。

しかし、抽象的な落書きについては広告物にあたるかの判断は難しく、すべての落書きに適用するには限界もあった。そのため、鳥取県では2008年に、自然公園法をさらに強化する目的で、独自に「日本一の鳥取砂丘を育てる条例」を制定。「文字、図形又は記号」の落書きを禁じた。もしこれに違反した場合は、5万円以下の過料という罰則も設けた。

今回の樹氷への落書きに対しては、環境省や青森県などが1月に対策を話し合う会議を開き、マナーの啓発活動をしていくことを確認。日本語を含めた5カ国語で書かれたルールブックをロープウェーの山頂公園駅に展示するなど、再発防止を呼びかけているという。十和田八幡平国立公園管理事務所の森川所長は、「海外からの観光客も増えていますので、文化の違いもあると思う。法律に触れる触れない以前に皆さんが楽しめる場としてのマナーやモラルを知っていただければ」と話している。

(弁護士ドットコムニュース)

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