「お年寄りのディズニーランド」を目指す「たんぽぽ温泉デイサービス一宮」(愛知県一宮市)の施設限定通貨「シード」がテレビ番組「カンブリア宮殿」(1月11日放送)で取り上げられ、ネットで話題になった。
番組や施設HPによると、この施設では、入所者に最初、5000シードを配布。その後は、1周100メートルの歩行訓練を行うと100シードもらえるなど、リハビリの頑張りに応じてシードをもらえる。
シードの枚数を数えることが手の訓練に、計算することが頭の体操になることに加え、意欲も増していくようだ。「稼ぐ」、「貯める」、「使う」という生きることの根本ができることに意味があるという。
●たくさん貯めると墓参りやショッピングなどの小旅行に
弁護士ドットコムニュース編集部が施設に尋ねたところ、グループとしては10年ほど前からシードを導入。この施設でも2010年の開設当初から導入しているという。100シード、500シード、1000シード、5000シード、10000シードの5種類がある。
シードは、施設内の喫茶コーナーや売店、カジノなどで使うことができるほか、たくさん貯めると墓参りやショッピングなど、施設外の小旅行にも連れていってもらえるという。
例えば、番組で紹介された「あなたの夢叶えますツアー」では、シードを使って、以下の場所に連れて行ってもらえる。
・墓参り(送迎範囲内) 50,000シード
・ドンキホーテ、もりや、しまむら 120,000シード
・キリオ・アピタ・ピアゴ 120,000シード
・一宮駅、名鉄百貨店 120,000シード
・本町通り 120,000シード
・喫茶店 120,000シード
・矢合神社、真清田神社 120,000シード
・138タワー 300,000シード
・江南フラワーパーク 300,000シード
・アクア・トトぎふ 500,000シード
・おちょぼ稲荷 1,500,000シード
この取り組みに対して、ネットでは称賛の声があがる一方で、「勝手に通貨作ってカレーとかコーラとか売っても法律的にはオッケーなのかね?」「コレって有価証券扱いにならんのかな?」と、施設内通貨の法的性質について、疑問に感じる人もいた。
施設内通貨には、どのような法的性質があるのだろうか。大和弘幸弁護士に聞いた。
●「施設内通貨」や「地域通貨」には強制通用力がない
施設内通貨や地域通貨の法的性質とはどのようなものなのか。
「『施設内通貨』『地域通貨』は、『通貨』とは呼んでいても、日本国中で強制通用力を有するものではなく、特定の施設・地域内において、特定の相手方に対して、特定の物品・サービスと引き換えにできるものに過ぎませんので、通貨(日本銀行券と金属貨幣としての硬貨)にはあたりません。
たんぽぽ温泉デイサービスの『シード』は、施設内でのみ、かつ、施設主催者に対してだけ利用できるものです。法的にいえば、利用者と主催者との間の債権関係を示す証票のようなものといえるでしょう」
どのような法律が関係してくる可能性があるのか。
「『施設内通貨』が、通貨に紛らわしい外観を有する場合には、通貨及証券模造取締法により処罰を受けます。また、『施設内通貨』が前払式支払手段に該当する場合には、発行者は資金決済に関する法律に基づく届出や登録が義務付けられます。
前払式支払手段の典型例はプリペイドカードです。対価を得て発行されるものが前払式支払手段にあたります。たんぽぽ温泉デイサービスの『シード』は、利用者が歩行訓練などを行うと付与されることなどから、対価を得て発行しているものではないと整理されているのではないでしょうか」
●対価性の有無や有償発行かどうかに注意
このような「施設内通貨」や「地域通貨」を作る際、どこに注意すべきなのか。
「これまで説明してきたように、『施設内通貨』『地域通貨』が対価を得て発行される場合には前払式支払手段に該当し、資金決済法の規制を受ける可能性がありますので、施設内通貨の仕組みを構築するにあたって、対価性の有無、有償で発行しているか否かを検討すべきでしょう。
前払式支払手段の場合、換金は、原則として同法の払戻手続を経て行う必要があります。また、同法では、例えば社員食堂の食券など、適用除外も多く規定しているので、確認する必要があると思います。
なお、疑似通貨の問題とは別の観点から、制約があり得ることには注意すべきです。例えば、過度なカジノ型デイサービスは、利用者の射幸心を強く刺激し、介護保険の趣旨に反するという議論があり、一部の自治体では条例制定がされた経緯もあるようですので、注意が必要でしょう」