宮崎駿監督が10月28日、イベントに登壇し、製作中の新作の長編アニメのタイトルが「君たちはどう生きるか」になることを明らかにした。このタイトルは1937年に吉野源三郎が発表した小説から取ったといい、「その本が主人公にとって大きな意味を持つという話です」と話している。
朝日新聞の報道によると、宮崎監督は「完成には3年か4年かかる」と話しているそうだ。
長編アニメでは、吉野源三郎氏の著作をそのまま映画化するものではなさそうだが、小説のタイトルをそのまま自分の作品のタイトルにしてしまうことには、著作権の問題はないのだろうか。佐藤孝丞弁護士に聞いた。
●著作物に該当するための要件
タイトルは著作権法で保護されるのか。
「本のタイトルや映画のタイトル自体が著作権法で保護されるためには、当該タイトル自体が『著作物』(著作権法2条1項1号)に該当する必要があります。『著作物』に該当するためには、次の要件を全て満たす必要があります。
(1)思想又は感情を内容とするものであること(2)創作的であること(創作性)(3)表現したものであること(表現)(4)文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものであること
本や映画のタイトルについては、通常、上記(3)と(4)の要件を満たすと考えられます。問題は、上記(1)と(2)の要件です」
タイトルは(1)の思想や感情を表現したものといえるのか。
「上記(1)の要件については、人の気持ちや考えが表れているといえれば足ります。例えば、幼児のお絵かきであっても上記(1)の要件を充足することは可能です。ですから、タイトル自体に人の気持ちや考えが表れていると評価できれば、上記(1)の要件を充足することになります」
(2)の創作性についてはどう考えればいいのか。
「『著作物』として保護されるのは、本や映画の内容ではなく『表現』です。ですから、当該本や映画の内容がどれだけ創作的であっても、タイトル自体が『著作物』として保護されるには、タイトル自体に創作性がなければなりません。
創作性の有無を考えるにあたっては、次の2つの要素があるとされます。
ⅰ 独創性(著作者自身の表現であること。他の表現の複製でないこと)ⅱ 創造性(何らかの知的活動の成果=クリエイティブであること)
難しい基準ですが、多くのケースでは、独創性があれば創造性も肯定されます。
本や映画のタイトル(題号)についてみると、独創性については肯定される例もあると思われますが、一般的には、ごく短いタイトル自体に創造性があるとはいえないケースが多いと思われます」
●「君たちはどう生きるか」のタイトルは著作物に該当しない
今回のケースをどう考えればいいのか。
「『君たちはどう生きるか』という表現自体に、人の何らかの気持ちが表れているとの評価が可能で、上記(1)の要件は充足する可能性があります。
しかし、当該タイトル自体に創造性の要素があるとは、必ずしも言い難いと思います。つまり、上記(2)の要件(創作性)を充足しない可能性が高いと考えます。
したがって、そもそも当該タイトル自体が『著作物』に該当しないため、保護期間の問題もないし、宮崎駿さんの映画のタイトルに著作権法上の問題は生じないと考えます」