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給食を全部食べさせる指導、「体罰」との境界線は? 岐阜の小学校で嘔吐相次ぐ
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給食を全部食べさせる指導、「体罰」との境界線は? 岐阜の小学校で嘔吐相次ぐ

岐阜市の市立小学校で、女性教諭が給食を残さないよう指導したところ、計5人の児童が嘔吐したり、食べものを吐き出すなどしていたことがわかった。市教育委員会は弁護士ドットコムニュースの取材に「不適切な指導だった」とコメントした。

市教委によると、女性教諭は昨年4月〜12月にかけて、担任していた小学1年生のクラスの児童に対して、給食を残さないように食べる指導をおこなった。4人の児童が嘔吐や吐き出すなどした。4人のうち2人の保護者からは、野菜やフルーツなど、児童の嫌いな食べものを食べさせてもらえないかという依頼があったという。

また、女性教諭は今年7月、新人教諭の指導をつとめていたクラスで、同じような完食の指導をおこなったあと、1人の児童が嘔吐した。この児童は当日、体調不良で、保護者から給食への配慮を求める連絡があったが、学校内でうまく伝達されていなかった。匿名の電話が9月上旬、市教委と学校にあり、市教委が調査したところ一連の出来事が発覚したという。

市教委の担当者は、弁護士ドットコムニュースの取材に「教諭が無理やり食べさせた事実はなかった。また、高圧的・威圧的な態度や叱責するなども一切なく、隣に座って食べさせていただけだが、結果的に不適切な指導になってしまった。今まで以上に配慮していきたい」とコメント。この教諭を口頭で厳重注意としたという。

一昔前の学校あるあるだが、給食をぜんぶ食べないと休み時間抜きだったり、無理やり口に入れられたというトラウマを持つ人も少なくない。今回のケースでは、そういうことはなかったということだが、もし仮に、給食を完食させるために無理やり食べさせるなどの「指導」があった場合、体罰にあたるのだろうか。高橋知典弁護士に聞いた。

●どこまで指導としてやっていいのか?

「まず、法律によって、体罰は禁止されています(学校教育法11条)。学校の先生は、教育上必要な場合、児童を懲戒することができますが、直接的な暴力だったり、肉体的苦痛を伴う行為は、体罰にあたると考えられています。身体に対する直接的な暴力とは、たとえば、叩く、蹴るなどです。

また、肉体的に苦痛を伴うものとは、たとえば、児童が『トイレに行きたい』と言っても行かせないとか、正座で授業を受けさせて児童が『痛い』と言ってもやめさせないとか、バケツを持たせて廊下に立たせるなどです」

今回のように、給食をぜんぶ食べさせる指導は体罰にあたるのだろうか。

「前提として、小学校は社会的教育をする場所でもあるので、当然、生活一般の指導もおこなわれます。その中には、好き嫌いを克服することも求められていると思います。したがって、指導して給食をぜんぶ食べさせることがいけない、ということにはならないでしょう。

ただ、どこまで指導としてやっていいのかが問題になってきます。そのときにポイントになってくるのが、身体に対する直接的な暴力や、肉体的苦痛をともなう行為なのかどうかです。

たとえば、無理やり口に入れる場合は、身体に対する暴力的な行為であると考えられます。たとえば、お団子状のものを持って、口の中に押し込むという行為は体罰にあたるでしょう」

●「ぜんぶ食べないと休み時間抜き」は体罰にあたる?

スプーンなどを使って、口元まで食べものを運ぶ行為はどうだろうか。

「その場合は、直接的な暴力にあたらないと思います。

ただ、『お腹いっぱいで食べられません』と言っていたり、あるいは嗚咽して目が潤んだり、小さく震えたり、吐き出すような前触れがあるにもかかわらず、口元に運ぶようなことがあれば、児童は肉体的苦痛を感じていると考えられます。無理に食べさせていることになるので、体罰にあたる可能性があります」

児童の隣に座って、精神的なプレッシャーをかけるような指導はどうだろうか。

「これもまた、かならずしも体罰にあたるとは考えられません。教育上、精神的なプレッシャーをある程度与えることはあります。たとえば、大会やテスト、運動会の出し物など、子どもたちは一生懸命な中で苦痛を感じているということがあったりします。

しかし、『つらそうだから指導をやめよう』ということになったら、子どもの成長を逆に邪魔してしまうことがあります。すべてのプレッシャーがいけないわけではありません。

もちろん、精神的なプレシャーをかけることが、不適切な指導になることはあります。大声で高圧的に指導したり、無視したり、嫌がらせをしたりが典型例でしょう。本当に純粋に相手の心を傷つけるのでダメだとされています。ただ、体罰というくくりとはまた別の話になります」

ぜんぶ食べないと休み時間を抜きにするという指導はどうだろうか。

「判断がとても悩ましいところです。かならずしも『行き過ぎ』とは考えられないかなと思います。ただ、休み時間をつぶして、ずっと給食を食べさせている理由にもよるでしょう。

たとえば、食べるのが遅いとか、集中力を欠いて食べないとか、そういった理由があって食べさせているのであれば許容されるでしょう。絶対に体罰になるという事例ではないと思います。一方で、児童の限界を超えているのに、『最後まで食べろ』と放置していたり、他の生徒がはやしたてたりすることを放置しているのは問題です」

●「慎重な事実調査が必要だ」

今回の岐阜市のケースについてはどう考えられるだろうか。

「今回のケースの詳細はわかりませんが、嘔吐する児童がいたのは確かです。児童が吐くまで食べさせたということになると、教育委員会も『不適切だった』とコメントしていましたが、本当に隣に座って食べさせていただけなのかなというところが気になります。

また、小学1、2年生は、自分たちがされたことを正確に保護者や先生に報告できないことがあります。非常に誘導に乗りやすかったり、抽象的な概念をとらえるのが難しいので、いじめの問題など事実調査が難しい年齢です。

そういった意味では、今回のケースは穏やかな指導方法であった一方で嘔吐という話も出ているため、事件の詳細について疑問が残るところがあります。このような疑問を抱えた状態では、防止策を立てるにしても難しくなるので、慎重な事実調査が必要になるでしょう」

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

高橋 知典
高橋 知典(たかはし とものり)弁護士 レイ法律事務所
第二東京弁護士会所属。学校・子どものトラブルについて多くの相談、解決実績を有する。TBS『グッとラック!』元レギュラーコメンテーター。教育シンポジウム、テレビ・ラジオ等の出演。Yahoo!公式コメンテーター。

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