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警察「落とし物を拾った人にお礼電話をしないと名前伝えます」、対応に法的問題は?
メモに記されていた文言

警察「落とし物を拾った人にお礼電話をしないと名前伝えます」、対応に法的問題は?

落とし物をした女性が、警察から連絡を受け、受け取りに行った際のやりとりをツイッターに投稿して、話題になった。

女性がツイッターに投稿した画像によると、警察から渡されたというメモに、「拾得者はお礼を辞退されていますが、お礼の電話を希望されていますので、速やかに連絡をとり、お礼の言葉を伝えてください。拾得者から、あなたからの連絡が無い等の理由で、お礼の言葉を受けていないと連絡を受けた場合、あなたの氏名、電話番号を拾得者にお伝えすることになります」とあり、拾得者の氏名と電話番号の欄があった。

結局女性が連絡したところ、「どんな人か会いたかった」と言われて怖い思いをしたという。このツイートに対して、別のユーザーから、「めっちゃ怖い」「(警察が)人の悪意に鈍感すぎる」などの感想が投稿された。

報道によると、問題となったメモを渡していたのは京都府警中京署で、「本人の同意なく個人情報を提供したことはないが、誤解を招く表現だった」として、このメモをすべて破棄したという。警察が、お礼電話の強制をすることや、拾った人に連絡先を伝えることに法的な問題は無いのだろうか。伊藤諭弁護士に聞いた。

●報労金請求のため、拾得者は遺失者の情報を知ることができる

「落とし物などがあった場合に、遺失者(落とした人)と拾得者(拾った人)との関係については、遺失物法に定めがあります。拾得者には、遺失者に対し、費用(交番などに届け出をするための交通費など)と物の価格の100分の5以上、100分の20以下に相当する額の報労金を請求する権利があります。

この権利を行使するために、拾得者には遺失者の情報を取得する必要があります。そこで遺失物法11条では、『拾得者の』同意があるときに限り、遺失者に拾得者の氏名や住所を伝えたり、拾得者に遺失者の情報を伝えることができるとしています」

●京都府警のメモは法的には問題なし

今回のケースでは、京都府警の対応には問題がなかったのか。

「遺失者の情報を伝える際に必要なのは、あくまでも『拾得者の』同意であって、『遺失者の』同意ではありません。遺失者の同意を要するとすると、拾得者の権利行使ができなくなるおそれがあるからです。したがって、今回の京都府警が作成したメモの内容は、法的には問題ないことになります。

なお、個人情報保護の観点からどうなのかという意見がありますが、これは法令に基づく情報提供(京都府個人情報保護条例5条1項1号)ですので、この意味においても問題ありません。

見ず知らずの人に自分の情報を知られることに不安を覚える危惧は理解できます。しかし、情報提供に遺失者の同意を必要とすると、拾得者の権利を守ることができなくなってしまいます。私としては現行法上はやむを得ないものと考えますが、遺失者の情報を保護するべきだということであれば、報労金制度の見直しなど何らかの立法的な対応が必要になります」

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

伊藤 諭
伊藤 諭(いとう さとし)弁護士 弁護士法人ASK川崎
1976年生。2002年、弁護士登録。神奈川県弁護士会所属。中小企業に関する法律相談、弁護士等の懲戒請求やトラブル対応などを手がける。第一法規「懲戒請求・紛議調停を申し立てられた際の弁護士実務と心得」著者。

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