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日本女子大、性的少数者の受け入れ検討へ「女子大で学ぶ権利」憲法上の位置づけは?
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日本女子大、性的少数者の受け入れ検討へ「女子大で学ぶ権利」憲法上の位置づけは?

日本女子大学(東京都文京区)が、男性の体で生まれたが、女性として生きるトランスジェンダーの学生について、受け入れるかどうかの議論を2017年度からはじめる。

検討のきっかけは、2015年によせられた小学生児童の保護者からの相談だった。日本女子大やその付属校の出願資格は、規定により「女子」と定められている。この児童は、戸籍上は「男子」だが、性同一性障害と診断されて「女子」として生活しており、同大付属中の受験を希望していたという。

昨年、小中高大学の代表で議論したが、いったん現段階での受け入れは難しいとの結論に達した。新年度からの議論では、まず大学での受け入れの可否について検討を進める。

伝統ある日本女子大が議論を開始するということで、他の女子大への影響も指摘されている。今回検討されているのは私立大学のケースだが、そもそも性的少数者が女子大で学ぶ権利について、憲法上はどう考えればいいのか。作花知志弁護士に聞いた。

●女子大の位置づけはどうなっているのか

以前は、女性の高等教育を受ける機会が圧倒的に少なく、男女の間で高等教育上の大きな格差がありました。女子大学は、こうした格差を是正するために設置されました。

ただ、短大を含めると、男女の大学進学率はほぼ同じになっている現代において、あえて女子のみを優先する大学を設けることに合理的な理由があるのかは、改めて検討が必要だと思います。

女子のみが進学できる大学を設けることは、逆に「女性は弱い存在であるという刻印付けを与えるものである」という意見や、女子大学に設けられている学部や学科が「この分野は女性の仕事だという刻印付けを与える危険がある」という意見もあります。

現代では法律や条令で男女共同参画社会を実現することが求められています。そのような21世紀の社会の中で、憲法が女子大学を許容しているのかが問題となるわけです。

●憲法上、どんな問題があるのか?

憲法89条は、その後段で、「公金その他の公の財産は・・・公の支配に属しない教育の事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない」と規定しています。

税金による補助金を受け取っている私立大学については、国家そのものが公金を運用して教育事業を営むのと同様(国立大学など)、平等性と憲法適合性が求められることになります。

では、具体的にどのような問題が考えられるのでしょうか。憲法26条1項は、「すべて国民は、ひとしく教育を受ける権利を有する」と規定しています。

そのため、「補助金を受け取っている私立女子大学が、あえて女性のみの入学を認めることははたして許されるのか」という憲法上の問題が生じるはずだと考えられます。

また、私法上も「性別を理由に受験や進学を拒否することが、民法90条の公序良俗違反にならないか」という問題もあります。

●性的少数者が女子大で学ぶ権利は憲法上保障されるのか

まず、現在では「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」が制定されており、適法に戸籍上の性別を変更することができます。

法律にしたがって性別を男性から女性に変更した方の受験や進学を女子大学は拒否できないはずです。もし拒否した場合、平等に教育を受ける権利を侵害することになります(憲法14条1項、同法26条1項)。

では、「戸籍上の性別を法律上変更していない人」についてはどう考えればいいのでしょうか。

私個人としては、憲法89条後段の規定などから、私立女子大学についても、もはや戸籍上の性別を法律上変更していない方についても入学や進学を拒めないというのが、憲法や私法解釈上の帰結ではないかと考えています。

現在では、大学進学について男女間で差別がある状態は既に払拭されています。大学で高等教育を受けたいと希望している方に対し、性別で受験や進学を拒否するという姿勢ではなく、むしろ自分達の大学を選んでくれたことを誇りに思い、積極的に多様な人材を受け入れる姿勢が、大学側には求められるのではないでしょうか。

そしてそのような姿勢を持つ学舎で教育を受けた学生の方はきっと、多様な問題が交錯する現在の社会をリードしていく人材に成長されるはずだと思います。

(弁護士ドットコムニュース)

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