3月3日に開かれた日本弁護士連合会(日弁連)の臨時総会で、委任状の「委任先が改変」されたのではないかという疑惑が起こり、ネットで大きな話題になった。総会後、東京弁護士会(東弁)がメディア向けの説明会を開き、「事務員のミスだった」と釈明した。
問題を指摘したのは、北周士弁護士(東京弁護士会)だ。北弁護士は、総会のメインテーマだった「依頼者見舞金制度」への反対を表明し、ネット上で委任状を募集。18通が集まったが、このうち3通について、委任先が別の弁護士の名前に書き換えられていたことが明らかになった。
具体的には、北弁護士の名前の上に訂正印が打たれ、別の弁護士の名前が書き足されていた。SNSへの投稿を発端にネットで話題となり、総会でも「可決するために不正を働いたのではないか」と議論がヒートアップした。
●原因は「超アナログ」な作業にあった
東弁副会長の谷眞人弁護士は、「名前の書き換え」について、「委任状を処理する際に起きた、恥ずかしいミスでした」と説明した。一体どんなミスだったのか。
まずは前提を確認しよう。東弁は所属弁護士の委任状を事前に管理する。東弁に届く委任状には、委任先を明記したものと、委任先を空欄にしたものの2種類がある。空欄のものについては、弁護士会の執行委員が、1人につき50人までというルールのもと、総会出席者の中から委任先を選ぶことになっている。
今回、東弁には数千通の委任状が届き、そのすべてを3人の事務員で処理していたという。その方法は手書きの委任状から、委任先と委任元などのデータをエクセルに入力するというもの。手順は次の通り。
(1)届いた委任状を、委任先が書かれたものと、空欄のものとに分ける
(2)(以下、空欄のものについて)委任元の名前をエクセルに記名する
(3)エクセル上で委任先を決める
(4)エクセルを見ながら、委任状の空欄に先ほど決めた委任先を手書きで記入する
今回のミスの原因は、白紙委任状の山の中に、委任先が決まっていた委任状が3通紛れ混んでいたことで発生した。(4)の作業のとき、担当した事務員がこの3通について、別の事務員が委任先の名前を間違って記入したものと思い、エクセルに書いてある名前に書き換えてしまったのだ。
本来、事務員はすでに名前が書かれているのだから、疑問に思うべきだったが、「約2000通の白紙委任状を処理していたので、機械的に作業してしまった」(東弁)という。
ただし、「改変」された委任状は訂正されたため、結果には影響がなかった。東弁によると「3通以外に、問題は確認できていない」という。
●北弁護士「手作業なんて不合理」
渦中の人物となった北弁護士は、弁護士ドットコムニュースの取材に対し、「改変しなくても、残念ながら可決は間違いなかった。なぜそんなリスクを犯すのかという疑問はあった」とコメント。
一方で、「仮に東弁の説明が事実だとすれば、この手のミスは常態化していると考えられる。今回は自分が反対派で、何票持っていたか知っていたから、たまたま明るみになっただけだ」と、東弁の処理方法に疑問を呈した。
北弁護士は、「手作業で処理するなんて不合理。本当にミスだったのなら、繰り返さないことが大事だ。ネット投票も含めて、電子処理などの方法を考えるべき。それが難しいことだとは思えない」と話していた。
東弁は北弁護士や、委任先が書き換えられた形になった3人の弁護士について、説明と謝罪をするとしている。