元文化放送アナウンサーで、現在フリーで活動する吉田照美さんが1月中旬、大ヒット映画『君の名は。』『シン・ゴジラ』『この世界の片隅に』の3作品をかけ合わせて描いた油絵(https://twitter.com/tim1134/status/819832919246049281)をネットで発表したところ、ツイッター上で「著作権侵害ではないか」といった声があがった。
吉田さんのツイッターによると、この油絵のタイトルは『この世界の片隅の君の名は、晋ゴジラ』。昨年公開されたヒットした3つの映画のポスターをかけ合わせて、さらにゴジラの顔部分に安倍晋三首相の似顔絵を組み入れたものだ。独特の作風にも見えなくもないが、キャラクターの特徴や構図などが似ている。
油絵が趣味の吉田さんは、定期的に政治を風刺した油絵を発表している。吉田さんの公式ホームページによると、今回取り上げた3つの作品には「原爆」「原発」「核実験」という共通点があるということだ。しかし、ツイッターでは「著作権侵害ではないか」といった批判があがった。著作権法にくわしい齋藤理央弁護士に聞いた。
●著作権法上の権利を侵害する可能性がある
「仮に、この利用方法で権利者の許諾をとっていないのであれば、複数の著作権法上の権利を侵害する可能性が高いです」
齋藤弁護士はこう切り出した。どういう権利を侵害する可能性があるのだろうか。
「まず、油絵として描きあげた時点で、権利者の許諾がなければ、『複製権』『翻案権』の侵害となります。アニメのキャラクターは、ほとんど特徴を変えずに再現されていますので、『複製権侵害』と捉えられると思います。
ゴジラについては、顔を変えてしまっているので、『翻案権』の侵害となる可能性があります。また、ゴジラについては、『同一性保持権』という著作者人格権侵害の問題も出てくると考えられます。
つぎに、油絵を電子データとしてサーバにアップロードした時点で、『送信可能化権』の侵害となります。また、画像データが各ユーザーのパソコンやスマートフォンに送信されると『自動公衆送信権』の侵害となります」
●著作者の名誉を害する利用となる可能性も
今回の油絵は、吉田さんの政治的なメッセージが含まれているが、こうした点はどんな影響を及ぼすのだろうか。
「もし、映画の権利者がそもそも、こうした政治的メッセージを意図していないのであれば、著作者の名誉または声望を害する利用として、著作者人格権のみなし侵害に該当する可能性があります(著作権法113条6項)。
この規定の制度趣旨の一つは、著作者の創作意図を歪曲するような利用を防止する点にあります。著作者が希望しない場所に著作物を設置するような場合も含みますので、ゴジラはもとより、顔を挿げ替えられたゴジラと同一の絵に組み込まれてしまった他の2作品との関係でも、同規定違反となる可能性があるのではないかと思います。
なお、著作権法は、『時事の事件の報道』のために著作物を利用することを適法化しています(同法41条)。しかし、油絵に含まれている3つの作品がヒットしている社会状況などを報道する目的があるとしても、顔を挿げ替えたり、異なる作品を一つの油絵にしているなど、目的上正当な範囲の利用とまでいえないのではないかと考えます」