ソースの香りが食欲をそそる焼きそば、冷えた身体が温まる甘酒...お正月に初詣に行くと、参道には露店がずらり。美味しそうな匂いについつい心惹かれるが、「衛生的に心配」という声も少なくない。
インターネットの掲示板には、「お好み焼きが生焼けっぽい上にキャベツは洗ってないの丸わかりの青くささで半分も食べれなかったんだけど、案の定今朝お腹下しました」「露天の焼鳥食べて一週間くだって、点滴打ったよ。検査でカンピロバクターが検出された」など、露店の食べ物で食中毒を起こしたという体験談が多数書き込まれていた。
●生クリーム、ご飯ものはNG? 食品衛生法上のルール
そもそも、露店ではどのような食品を販売してもいいのだろうか。例えば、東京都福祉保健局では、露店に対して「生もの(さしみ、すし等)、生クリームを取り扱わない」「原材料の細切等の仕込み行為はその場で行わない」といった食品衛生法に基づくルールを設けている。
生野菜や生のフルーツの提供は禁止していないが、浅漬けにする、その場でカットするなど「衛生上支障が出る行為」を伴う場合は、保健所から指導が入ることがあるそうだ。生クリームは、植物性はOKだが、動物性はNG。栄養豊富で微生物が繁殖しやすく、食中毒の原因になる可能性があるためだという。
ちなみに、カレーライスや牛丼といった「ご飯もの」は、食中毒のリスクが高く、特におにぎりは握った人の手を介して微生物が付着しやすいため、食中毒の事例がたびたび報告されているそうだ。ただ、露店でご飯ものを絶対に取り扱っていけないわけではなく、「固定の店舗に準じた洗浄設備などを揃えた上で提供するならOK」とのことだった。
●露店の食べ物で食中毒になったら?
では、露店で買った食べ物が原因で食中毒を発症した場合、治療費や慰謝料を店に請求できるのだろうか。加藤泰弁護士は次のように解説する。
「当然のことですが、露店はお客さんに対して、美味しい食べ物という以前に、安全な食べ物を提供する義務があります。
食中毒を起こす食べ物を提供した場合、露店は『債務の本旨に従った履行を行なった』、つまり、代金と引き換えにやらなければならないことを終えたことになりません。露店は債務不履行責任を負い、被害者の被った損害を金銭で賠償することになります。
具体的には、被害者は露店に対して、治療費、薬剤費、通院交通費、休業損害、慰謝料などを積算していった合計額を請求できます」
露店に場所を提供した神社などの責任はないのだろうか。
「神社の境内で開かれたお祭りであっても、基本的には神社に責任はないでしょう。神社は場所を貸しただけで、お客さんに食べ物を提供したわけではありません。神社は安全な食べ物を提供する義務を負う立場ではないのです。ただ、状況によっては神社が責任を負うこともあるかもしれません」
例外的に神社が責任を負うのは、どのようなケースなのか。
「まず、単なる場所貸しを超えて、神社側が主体的に露店の運営に関わっていた場合ですね。次に考えられるのは、神社が露店に対して、汚染された食材や水を提供してしまった場合です。露店に提供していた神社の井戸水が、神社の管理不行き届きで汚染されていた、といった状況では神社が責任を負うことになるかもしれません。
ただ、これらはあくまでも例外なので、神社に対して責任を追及できるケースは少ないと考えられます。衛生面がルーズな露店があっても、地元の業者ではないことが多いでしょうから、現実的に、神社が責任追及をすることが費用対効果から難しいという要因もあるかもしれません」
最後に、加藤弁護士は次のように忠告していた。
「露店での買い物は楽しく、美味しそうな香りに誘われて、ついつい買いたくなるものです。ただ、食中毒のリスクも念頭に置いて、露店なりに衛生管理がしっかりしていそうなお店で買うようにするべきですし、傷みやすい食べ物は避けるなどした方が良いかもしれませんね」