「赤ちゃんのころの恥ずかしい写真をSNSから消してほしい」。そんな理由で、オーストリアの18歳の女の子が、両親を訴えたことが報じられ、話題となった。
海外メディアの報道などによると、両親はネット上で、500枚以上の娘の写真を友人に公開した。両親は彼女のオムツ交換やトイレトレーニングの写真も投稿していた。彼女は画像を削除するよう何度も両親に頼んだが、拒否されたという。
一方で、彼女の父親は、写真を撮影したのは自分だから、写真の著作権と配布する権利は自分にあると主張しているという。日本でも、フェイスブックなどに自分の子どもの写真を投稿する人は少なくない。もし同様の争いが起きた場合、どんな法的問題が考えられるのか。影島広泰弁護士に聞いた。
●親であっても、プライバシー侵害にあたる可能性がある
「もし同様のケースが日本で起きた場合、子どもの請求が認められる可能性はあると考えられます。
『赤ちゃんのころの恥ずかしい写真』をSNSにアップすることは、プライバシー権を侵害する可能性があるからです」
影島弁護士はこのように述べる。どのような場合に、プライバシー権を侵害したといえるのか。
「プライバシー権については、作家の三島由紀夫氏のモデル小説『宴のあと』事件の判決が示した基準が広く用いられています。
この判決では、まず、公開された内容について、次の3つの点を満たす必要があることを指摘しました。
(1)私生活上の事実または私生活上の事実らしく受け取られるおそれのあることがらであること、(2)一般人を基準として考えたときに、公開を欲しないであろうこと、(3)一般の人々に未だ知られていないことがらであること
そして、公開された内容が、この3つの点にあてはまる場合で、その公開によって不快、不安の念を覚えた場合には、プライバシー権を侵害するとされました」
今回のようなケースは、この基準をみたす可能性はあるのか。
「『赤ちゃんのころの恥ずかしい写真」からは、その人が当時どのような行動をしていたのかが分かります。
これは、(1)私生活上の事実にあたります。また、(2)『恥ずかしい』の内容によっては、一般人であれば公開を欲しない事実であると考えられる可能性が出てきます。
そして、(3)その人が赤ちゃんのころにどんな行動をしていたのかは、一般の人々に知られていません。ですから、プライバシー権の侵害といえる可能性があるのです」
親が、「写真をとった自分に著作権がある」と主張することは、どう影響するのか。
「そうした主張をしても、プライバシー権の侵害とは何の関係もありません。父親が著作権を持っているということと、その写真を公開することがプライバシー権を侵害するかどうかは、全く別のことだからです。
日本の法律では、子どもが親に対して訴訟を提起してはいけないなどということはありませんので、子供が親に対して、SNSでの公開の禁止を求めたり、損害の賠償を求めて訴訟を提起することも可能です」