ウイルスでPCを遠隔操作した一連の事件で逮捕・起訴されている元IT関連会社社員・片山祐輔被告(31)が6月上旬、不正指令電磁的記録(ウイルス)供用と威力業務妨害の容疑で追送検された。報道によると、これで一連の事件をめぐる警察の捜査は事実上終結、結局「ウイルス作成罪」での立件は見送られた模様だ。
片山被告は今年2月、PC遠隔操作事件に関与したとして威力業務妨害の疑いで逮捕され、その後これまで計7つの事件で、ハイジャック防止法違反や偽計業務妨害などの罪で起訴されている。片山被告はすべての罪について否認している。
今回、「ウイルス作成罪」での立件断念の報道をうけて、ネット上には「警察は事実上、敗北した」という指摘もある。本当にこれは「敗北」と言うべきなのだろうか。また、警察はなぜウイルス作成罪での立件を断念したのか。”真犯人からの犯行メール”を受け取るなど、この事件と強い因縁を持つ落合洋司弁護士に、これまでの捜査への印象を聞いた。
●ウイルス作成罪は、立証しなければならないポイントが他の罪と全く違う
「ウイルス作成罪の立件が見送られた理由としては、自白が得られなかったので、作成した『日時、場所および具体的方法』を特定するのが困難だったのではないか、と考えられます。
自白がなく、他にそれを特定する証拠もないまま、あえて立件しようとすればどうなるでしょうか。起訴状には日時、場所についてかなり幅のある記載をせざるを得なくなります。ウイルスを作った具体的な方法についても、あいまいにしか書けません。
立証対象としての事実は、かなり漠然としたものとなりますが、いざ裁判となれば、検察はそれを『証明』しなければならなくなります」
――ウイルスを作成した日時や場所、具体的方法がわからなければ、裁判にはできないのだろうか?
「難しいですね。ウイルス作成罪の公訴時効期間は3年です。ウイルスを作ったのが『いつ』か分からないまま裁判を始めたら、後から『実は時効でした』となるかもしれません。また、別の人物が作成したウイルスをもらい受けた可能性もあります。
検察、警察当局としては、すでに他の罪で起訴、追起訴を重ねていますから、あえて無理に立件すべきだとは考えなかったのではないかと推測されます。
業務妨害など他の犯罪と比べて、ウイルス作成罪は立証構造が違う。つまり、有罪とするために証明しなければいけない点が全く異なるという点を、考慮する必要があるでしょう」
――警察・検察の捜査を評価するのは、まだ時期が早すぎるということか。
「そうですね。ウイルス作成罪だけに目を向けて、捜査を評価することは困難ではないでしょうか。むしろ、捜査機関がこれまで収集してきた証拠が、被告人の犯人性を疑いなく立証できるものなのか、そこに問題はないのかを総体として注視していくべきでしょう」
落合弁護士はこのように締めくくった。捜査が終結したといっても、公判はこれからである。検察と全面対決の姿勢を見せている片山被告と弁護人が法廷でどんな主張をするのか。むしろこれからが本番といってよいだろう。